2024年 ノベル大賞受賞作文庫化!
- 「シュガーレス・キッチン」特集
- 「ハンティングエリア」特集
- 「片付かないふたり」特集


2024年ノベル大賞 準大賞受賞作
シュガーレス・
キッチン
-みなと荘101号室の食卓-
樹れん(装画:わみず)
ふたりの過去に、きっと涙する。癒しと再生の食卓ドラマ。
「食べ物の甘味だけがわからない」という味覚障害を持つ茜は、アパート「みなと荘」に住む大学4年生。そんなみなと荘に、管理人・綾乃の孫で料理上手の男子高校生・千裕が引っ越してきた。
千裕と綾乃が住む101号室の食卓で「甘さがわからなくても美味しい料理」を振る舞ってもらううち、徐々に食事の楽しみを見いだしはじめる茜。
やがて茜と千裕には、一匹の犬をめぐった忘れられない記憶があることがわかってきて……。

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秋尾 茜
食べ物の甘さを感じられない大学4年生。なかなか他人に心を開けずにいたが……。
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黒江 千裕
「みなと荘」に引っ越してきた、料理上手でおだやかな高校2年生。その過去には事情があり……。
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綾乃
千裕の祖母で、「みなと荘」の管理人。広い心で住人たちを優しく見守る。
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志摩 和馬
茜の大学の友人で、ゼミの引っ張り役。事あるごとに茜を気に掛けてくれて……?
誕生日会という行事を好きになることは、きっと一生ない。
雨の中、口元を押さえて壁に寄りかかっていたら、ぱしゃぱしゃと水たまりを蹴って走ってくる足音が聞こえた。私と同じように傘がないひとが焦っているんだ、可哀想に。背後から近づいてくる足音はそのまま私の隣を素通りしていくと思ったのに、すぐ後ろで止まった。同時に、私の体に当たって弾けていた雨も途切れる。
「茜さん?」
ふり返ると一人の男子高校生が、私に大きな傘を差しかけていた。
彼は切れ長の目で私を見下ろしている。ぴちゃん、と傘の骨の先から雨粒が滴った。
「ちーちゃん」
咄嗟に口から出た愛称。一拍見つめ合い、私はぱちん、と唇を掌で叩いた。
「じゃない、ごめん。……千裕くん」
ちーちゃん、ではなく千裕くんが、小さく会釈した。はじめて会ったときと同じように。
- 樹 れん(いつき・れん)
愛媛県在住。小説も漫画も映画も短歌も俳句も好きです。大人になってようやくエッセイを本当に楽しめるようになった気がします。
三浦しをん
「食事」を通して距離を縮め、自分の過去や思いと向きあう勇気を得ていく話で、心癒やされるひとが多い作品だと思う。
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今野緒雪
共通する痛みを抱えた人々が関わり、心を通じ合わせて傷を癒やしていく過程が、説得力をもって描かれていました。
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似鳥 鶏
刊行の暁にはわりと熱烈なファンを獲得するのでは、と期待できるところもあり、楽しみな作品。
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丑尾健太郎
若者同士の会話には軽やかさの中に生の質感が感じられ、むしろ脚本家としてこちらの世界にお招きしたいと思うほどでした。
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※リンク先の選評では、物語の結末に触れている箇所があります。