最新選考結果
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選者 新米編集・山より総評
【主要な登場人物が「方言」をつかっている恋愛小説】をテーマにした「方言恋愛小説賞」。大変な力作を寄せていただきありがとうございました。各地の「方言」を堪能すると同時に、様々な恋愛模様を楽しませていただきました。ご応募くださった皆様に深く感謝申し上げます。
悩み抜いた末、入選2作・佳作3作・あと一歩7作を選ばせていただきました。
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評価基準の軸は“「方言」という要素をうまく小説に取り入れられているかどうか”、と定めさせていただきました。
ひとくちに「方言」を使うといっても、その用い方は様々です。登場人物のバックボーンを想像させるものや、方言と標準語(物語によっては“都会”をイメージさせるような言葉)の対比でキャラクター同士の関係性を表すもの。全体の世界観を深める効果に、柔和な人格を表すはたらきなども。「方言」は、見せ方によってはそれだけで作品の強みになり得る可能性を秘めています。ただキャラ付けとして記号的に喋らせるだけではなく、「なぜそのキャラクターは方言を話すのか。方言の中でも、なぜその地方の方言を話すのか」を深堀りしていただけることで、より物語の完成度も上がるのではと思います。一方で、かえって「方言」を表現することに力が入りすぎるあまりストーリーが急ぎ足になっているものや、展開が遅々としてしまっている作品も見受けられました。本賞は短編小説という規定でしたので、ページ数に限りがある中で物語を展開させつつ、恋愛の機微を細やかに書くことは難しかったかもしれません。ですが、プロを目指すならば、決められたページ数の中にどういった要素を入れ込み、それぞれどれくらいの比重で描くかを考える技術は非常に重要です。何度もご自分の作品を読み返していただくことでそれは緩和されると思いますので、ぜひ試してみてください。
今回最終選考まで残ったものは、個人的に「方言」と「恋愛」のバランスが良く、作者の独創性も感じた作品です。特に佳作以上の5作は、設定の意外性はもちろん、「方言」の使いかたがとても巧みです。詳しくは各作の選評をご覧いただければと思います。
最後に、本賞はあくまで私の独断と偏見による選考です。当然、作品に対して抱く感想は人によって千差万別です。ぜひ入選作をお読みいただき、浮かんだアイデアを元に、新たな創作に励んでいただけたら幸いです。
入選
『名前のない『すき』』ばいお
描写が素晴らしいです。ラストシーンの情景などは特に、恵那峡を魅力的に描けていると思います。そしてパチャラの話す東濃弁がやわらかでかわいらしく、「好き」の印象を「ぬくい感じ」という曖昧でありつつも直接的な言葉で表現するセンスも良かったです。過不足なく、読者が知りたい情報を自然に盛り込むことができていると思いますが、パチャラの掘り下げが浅く、物語のメインキャラとしては少し物足りない印象もあります。ですが、全体的な完成度は高く、素敵な作品でした。
『もう、好きちゃう。』杉本夏菜
ふざけてつかう標準語と、恋人が日常的につかうようになった標準語の感じ方の違いで恋の終わりを予感させる構成が良かったです。これぞ「方言」恋愛。恋愛の始まりから終わりまでを主人公の一人語りで展開させていくことで、盲目的に恋する心情もうまく表現できています。ただ、後半は駆け足で進んでしまったような印象です。健のことを徐々に忘れていき、新たな恋を見つける部分こそ主人公の成長を表す重要な部分だと思いますので、そこをもう少し重点的に描いていただけたらと思います。
佳作
『くろいの』ととり
冒頭の一文に心を掴まれました。時代や地域の明確な表現はないのにも関わらず、語り手の言葉遣いや単語でおおよその世界観を読み手に把握させることができるのは、素晴らしい技術だと思います。ただ1点、主人公の年齢設定に少し疑問を抱きました。この年齢だと、現代の読者にとっては大きな違和感を与えかねないと感じます。
『このちっぽけな青の向こうに』辻すずり
「都会に出たい」という想いを抱きつつも一歩を踏み出せない主人公像に現実味があり、よかったです。徐々に夢を見出していく過程も繊細に描けています。ただ、主人公に対する瞬の好意が終盤で急に表出したような印象があります。とはいえ、物語自体はまとまりがあって読後感もよかったです。
『勇者の恋人』黒瀬かすみ
今回の応募作のなかではファンタジー作品は数少なく、非常に楽しく読ませていただきました。異世界の「方言」という設定に広がりを感じます。世界観もしっかりと作りこまれているので、ファンタジーを読みなれていない方にも楽しんでもらえる作品なのではないでしょうか。たまにミルシュカのセリフが標準語になっているのでは?と思われる部分があり、残念でした。
あと一歩の作品
作品名 | 作者名 |
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『おかえりパイナップルサワー』 | 友栄明 |
『かわいいだんじ』 | 白木春織 |
『君との恋はセーブできない』 | はづき |
『青春はどげんも、こげんも、なか!』 | ゴオルド |
『万年桜の咲く庭で』 | 中村ぼん |
『モーニング グローリーズ』 | 高山文徳 |
『雪国恋話』 | 東雲亮 |