2025年 ノベル大賞受賞作文庫化!
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- 『税理士 鮫島桐子』特集

2025年ノベル大賞 佳作受賞作
『税理士 鮫島桐子』
橘マコト(装画:蛭塚 都)
186㎝の長身と、鋭い眼光。
名古屋税理士会所属の税理士・鮫島桐子は、どんな不正も見逃さない。顧問先である水戸研磨工業で、ある日、不審な領収書が見つかった。しらばっくれる社長。だが、鮫島の目には全てお見通しで…。
脱税、横領、詐欺。水戸研に起こる問題を解き明かしたその先で、思わぬ事件が待ち受ける⁉
書類に隠れた不正を暴く、痛快・税理士ミステリー!
中丸哲也税理士事務所
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鮫島桐子さめじまきりこ
中丸哲也税理士事務所の所属税理士。身長186cm。クールで淡々としているが、甘い物には目がない。
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中丸哲也なかまるてつや
事務所の所長。税務署を定年後、税理士事務所を開業した。飄々とした好々爺。
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田子ゆかりたごゆかり
事務所のパート。荒っぽさの残る元ヤン。2児のよき母。
水戸研磨工業
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水戸孝一みとこういち
水戸研磨工業の社長。前社長(友子の父)引退後、社長となった。
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水戸友子みとともこ
孝一の妻。経理部長。さっぱりした性格で、鮫島の仕事ぶりを信頼している。
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前田咲まえださき
総務担当。末っ子気質で、人に甘えるのが上手い。松岡になついている。
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松岡沙世まつおかさよ
経理担当。お調子者だが根は真面目。前田を生意気な妹のように思っている。
六月下旬の名古屋は、猛暑日を頻繁に記録する暑さだった。
社長室の空調は動いているものの、水戸孝一の額にはうっすらと汗が浮かんでる。窓の外を見ると、会社の駐輪場が目に入った。その奥の駐車場に並ぶ、『水戸研磨工業』とプリントされた社用ワゴン。日差しに照り付けられた車内は、さぞかし暑いに違いない。
東海地方の梅雨入りを、十二日前に気象庁が発表していた。ニュースによると、今年の梅雨は土砂降りとカンカン照りが交互に現れる陽性の梅雨らしい。
こんな日にはアイスコーヒーが飲みたかった。だが、女子社員が用意したのはいつもと同じ熱い緑茶だ。湯呑みの数は二つ。孝一と、応接机を挟んで向かい合う税理士の前にも置かれている。
税理士は先ほどから無言のままだ。
孝一は彼女が苦手だった。
ソファに座っていても、明らかに自分より上背がある。立ち上がれば一九〇センチにも迫るだろう。社長として色々な人物と出会い、外見で判断してはいけないと頭では理解しているが、それでも見下ろされる圧迫感は孝一を気おくれさせた。
先代から会社を引き継いで以来、普段は経理部長である妻に対応を任せ、孝一自身は税理士と頻繁に話さないのも、苦手意識に拍車をかける。最後に直接顔を合わせたのは、決算説明を受けたおよそ半年前だ。
だからこそ不思議だった。いつも妻とのやりとりで済ましているのに、今日は一体どうしたのか。教師に呼びつけられた生徒のように、孝一は緊張していた。
お茶を用意した総務の前田咲も、その空気を感じ取っているらしい。どこか居心地が悪そうだ。お茶出しを終えるや、お盆を抱えてそそくさと退室していく。
きいい、かちゃん。
安い木製ドアの軋む音が室内に響く。
扉が完全に閉まるのを合図に、税理士はゆっくりと切り出した。
「――社長、脱税しようとしているでしょう」
- 橘マコト(たちばな・まこと)
東海地方出身。税理士。甘いものが大好き。『税理士 鮫島桐子』で2025年集英社ノベル大賞佳作を受賞。改稿の上、同作でデビュー。



























三浦しをん
私も確定申告を依頼したいが、レシート整理が行き届いておらず、絶対に𠮟られる。と、鮫島さんが実在の人物であるかのように、あれこれ空想して楽しんだ。
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今野緒雪
キャラクターもステレオタイプではなく、それぞれのバックボーンなども想像できるような厚みがありました。
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似鳥 鶏
何というか、すさまじい完成度でした。
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丑尾健太郎
税務に詳しくない人にも分かりやすいように工夫がされていて、まさに「お仕事もの」として良くできた作品です。
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※選評には物語の結末に触れている部分がございます。