「ひとつの正解」が存在しない
今の世の中で、
自分がどこへ行けばいいのか
分からない若者たち

岩谷新しいものというのは、飲みにいった先などでキャッチするんですか?

麻布それも多いですね。今でもマッチングアプリでいろんな人と会って、話を聞いています。きちんと会社員をやっていると、周りに同じような人しか集まってこなくなるんです。そのせいか、異質なものに触れたい気持ちがどんどん強くなって。僕、成長ジャンキーなところがあって、日々新たな情報や知識を得られている実感がないと不安になるんです。だから、自分が全く持っていない考え方や行動をする、学びがある相手の方が好きなんですよ。とはいえ、熱烈に誰かのことを好きになることはない。だから、息をするように人を好きになって、好き過ぎておかしくなって、別れた翌月にはまた別の人を好きになる……っていうことができる人が羨ましくもあります。僕自身は一人暮らしが楽しすぎて、一人で生きていく方が向いてますね、多分。今、連載でちょっと恋愛要素が入ってくる話を書いてるんですけれど、難しいですね。

岩谷アザケイさんがどんな恋愛を書かれるのか気になります。

麻布やっぱりすごくねじれたものを書いちゃう。周囲の人に話を聞くと、みんな同じような恋愛をしているようで、それぞれ違っている。恋愛や結婚ひとつとってもみんなの常識がバラバラな時代に、恋愛リアリティショーは昔と変わらず流行っている。そういう捻じれの中で、いったい僕たちは誰に向けて何を書いていくんだろうって思うし、自分が書きたいものを書くしかない気もする。今書いているものは連作短編で、周りから見たらすごく整えられた正しい場所にいる人たちが、でも自分がどうしたらいいのか分からないまま右往左往している話です。第一話は、大学の意識高い系のビジコンサークルが舞台で、第二話は意識高い系の会社。モデルはサイバーエージェントです。藤田晋社長が『この部屋』を読んでくれたらしくて、サイバーエージェントのことも好きにいじってくれていいですよって言ってもらえたので(笑)。僕たちの時代って「ここは正しい場所でここは正しくない場所」みたいな「正解」があったけれど、Z世代に話を聞くと「ひとつだけこれが正しい、という価値観は存在しない」って言うんです。じゃああなたにとって何が正しいの? って訊くと、彼ら自身も分かっていない。「自分がどこへ行けばいいのか分からない」という感じ、すごく今の時代っぽいですよね。

岩谷サイバーエージェントの話はすごく気になります。

麻布昔から今に至るまでずっと、一番熱い会社だなと思っています。若者カルチャーを作り出していて、みんな会社が好きだから社員もすごくイキイキしていて、年齢関係なくみんな「若い」。そして今のトレンドを押さえる嗅覚もすごい。

岩谷アンテナがすごいんですね。

麻布昔、批評家の浅田彰さんが「スキゾとパラノ」っていう概念を提唱していて、スキゾは「放り出して何も追わない人」。パラノは「執着して集めていく人」で、人間はそのどちらかしかないと。ここからは僕の個人的解釈ですが、様々な「社会的成功の記号」を集めることにこだわる人たちを描いたタワマン文学は「パラノ」の文学で、会社という「地元」を共有することを重んじるサイバーエージェントの人たちもパラノ側だと思っています。逆に「そんなものにこだわって生きるなんてクソだ」とパラノの批判しか言えず、自分が拠って立つ場所や価値観を持てないのがスキゾ。スキゾもパラノも、俯瞰的に見るとどちらも滑稽で、誰かには必ず嫌われながら生きていかなくちゃならない。

岩谷なるほど……タワマン文学の真髄が、ちょっとずつ分かってきた気がします。

麻布昔から友達の粗が目について、人に言えないような比喩を考えちゃうことに罪悪感があったんですけど。『この部屋』に収録している「真面目な真也くんの話」もそうで、あれ、大学の同期がモデルなんです。

岩谷「中身が空洞だからピーマン」っていう比喩、よく思いついたなと思いました。

麻布でも、ひとつ粗があってもその人の全てが損なわれるわけではないんですよね。別にそいつにピーマンみたいなところがあっても、それはそれとして人間関係は続いていく。友人のことをこんな風に思う自分って何なんだろうって思うけれど、100%嫌いかというとそうでもない。岩谷さんは、友達を100%好きになれますか?

岩谷僕は、相手に筋さえ通っていれば、あまり人を嫌いにならないタイプかも。とはいえ、ダメな人はダメで、そういう人に歩み寄るためにエネルギーを使うのはちょっと嫌かも。仕事で関わる人だったら頑張って歩み寄りますけど。

麻布私生活ぐらいは自分の筋を通したいですよね。仕事は仕事として、私生活は一人でも楽しくやっていける時代だから、少数の友達と楽しく生きていくのが一番いい人生なんだろうなと思います。僕、昔はすごく社交的だったんですけれど、ある時友人とケンカしたのがきっかけで、人間関係をお休みしたんです。そうしたらもう快適で、どんどん一人遊びがうまくなってしまった。何かに固執しないって、何かをガンガン捨てていくことでもあるんですけれど、捨てることで何か得るものもある。ひとつのところに留まる温かさってあると思うけれど、それを捨てて走り去る行為にも意味があって、自分は今年、それについてちゃんと考えようと思っています。先ほど話した新連載の裏テーマがそれなんですよ。「置いて行かれる人と、走り去っていく人」。互いにいろんなドラマがあって選択しているし、その結果どちらもなにかしらの苦痛を抱えるっていう。

岩谷ますます面白い。アザケイさんのことも分かってきました、ちょっとずつ。

麻布えっ、めちゃめちゃ掘り下げられてます!? 書評家ってやっぱり怖いですね。書いてる人の表面だけじゃなくて、内側まで読み取られてる。書き手にとっては、書評って自分を解剖されてる感じがあってすごく怖いんですよね。

岩谷いえ、僕はあくまでダンサーなので(笑)。今日は本当にありがとうございました。『青春と読書』に掲載の対談でおすすめいただいた小説2作品も、ぜひ読んでみたいと思います。

麻布僕も『岩谷文庫』で紹介されていた『こころ』や『燃えよ剣』、読み返してみようと思います。ほんと、気が合いますよね。お会いする前は何を話そうかと思っていて、時間いっぱい『HiGH&LOW』の話をすることになるかと思っていたんですが、HIPHOPとか、意外と共通しているものがたくさんあった!

岩谷次はお酒を飲みながらで、ぜひお願いします!

【対談者プロフィール】
いわや・しょうご
1997年生まれ。2017年、総勢16名からなるダンス&ボーカルグループTHE RAMPAGEのパフォーマーとしてデビュー。映画「チア男子‼︎」への出演ほか、日本将棋連盟三段や、実用マナー検定準一級の資格取得など趣味多数。WebマガジンCobaltにてブックレビュー『岩谷文庫』を連載。また、朗読劇の脚本など、執筆活動の幅を広げている。

あざぶけいばじょう
1991年生まれ。2022年、Twitter(現「X」)に投稿したショートストーリーをまとめた『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』で小説家デビュー。共著『本当に欲しかったものは、もう』。2023年2月より、別冊文藝春秋にて『令和元年の人生ゲーム』連載中。

岩谷翔吾・初のブックレビュー小説
『君と、読みたい本がある』
本編は「青春と読書」で好評連載中!

【クレジット】
構成:増田恵子
撮影:西岡泰輝
ヘアメイク:上野綾子(KIND/岩谷さん)
題字:岩谷翔吾(THE RAMPAGE)