威風堂々惡女 白洲 梓 装画/蔀シャロン威風堂々惡女 白洲 梓 装画/蔀シャロン

あらすじ

瑞燕国で最下層とされる尹族の少女・玉瑛は、皇帝の「尹族国外追放」の勅命により、下女として働いていた屋敷を追われた。山中に逃げた玉瑛は騎兵に斬られ、尹族差別の元凶となった皇帝の側室・柳雪媛への恨みを胸に意識を失ってしまう。意識を取り戻した玉瑛が目にしたのは「雪媛様」と呼びかけてくる見知らぬ女。玉瑛の魂は過去へと渡り、かの惡女・柳雪媛の肉体に宿ったのだ。玉瑛は「惡女」として非業の歴史を塗り替えていく…。

登場人物紹介

惡女と歴史改変の鍵を握る人々

  • 王青嘉(おう せいか)
  • 柳雪媛(りゅう せつえん)
  • 碧成(へきせい)
  • 芙蓉(ふよう)
  • 芳明(ほうめい)
  • 珠麗(しゅれい)

人物相関図

人物相関図

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漫画/蔀シャロン

試し読み

 天を貫くような青々とした竹林の先に、蓮鵬山は聳えている。
玉瑛は息を弾ませながら、小走りに細い山道を駆けた。進むにつれ、やがて道らしい道もなくなり、急な斜面を注意深く登っていく。木漏れ日が山中に陰影を刻み、少女の形のよい額を時折照らし出した。
川を越え、繁みを抜けると、行く先に一筋、白い煙が立ち上るのが見えた。口許をほころばせると、窪地の斜面を一気に駆け下る。
「――先生!」
眼下に見える粗末な庵の前では、一人の老人が倒木に腰かけており、焚き火に鍋をかけていた。
白髪の老人は玉瑛に目を留めると、皺だらけの顔を緩めた。
「玉瑛、これ、そのように走ると危ないぞ」
「お使いを急いで終わらせてきたんです。これで夕方までは時間があります」
そう言って庵の中へ飛び込むと、うずたかく積まれた書物のいくつかを引っ張り出す。さらに、自分用の帳面と文箱を胸に抱えた。
老人の前に膝を揃えて座すと、丁寧に硯と筆を取り出す。
「この間は算術が中途半端なところで終わってしまったから、ずっともやもやしていたんです。でも昨日、閃いたんです。ずっと月を眺めていたら、この暦の算出法はもうひとつあるんじゃないかって……」
『十算経』と書かれた書物を捲り、記述を確かめながら、頭の中にあるものを吐き出すように慌ただしく帳面に書きつけていく。
老人は少女を眺めた。筆を持つ手は細く、あかぎれだらけだ。肘から下が露になっているのは、その着古した衣服が数年前に主人から支給されたもので、十六になった彼女の体には丈が足りていないからだった。
一心に筆を繰る少女の大きな瞳は、きらきらと輝いていた。

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書籍情報

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