岩谷翔吾がライブの
ステージから見ている光景は
合戦に臨む戦国武将が
見ていた光景と同じものだった!?

岩谷今村さんはすごくお忙しいのに、いったいいつ小説を書いているんですか?

今村ずっと書いてますよ。だって、2018年から今日まで、6年間一日も休んでないから。

岩谷ええっ!?

今村執筆もラジオもテレビも講演もあるけれど、40代のうちに「これが今村翔吾だ」と胸を張れる仕事をしたいと思っているから、今休んでいる場合じゃないと思っています。僕からもお聞きしたいのですが、岩谷さんは、今の目標ってなんでしょうか?

岩谷THE RAMPAGEとしては、東京ドーム2daysを成功させたいです。

今村ドームから客席って、どう見えるんですか? ファンの方の顔って分かるものなんです?

岩谷ちゃんと分かりますね。たとえば5万人の観客がいらっしゃるとして、俯瞰してひとかたまりの観客と見るのは簡単です。でも、僕らはそうしたくないから、たとえば5万人の観客がいらっしゃったら、一人ひとりのお客さんが5万人いる、ととらえています。

今村それ、僕にもすごく分かる感覚ですよ。例えば、戦争の小説を書くときに2万対3万の戦いと書くと、もう数字同士の戦いになってリアル感がないし、その中で1400人死んだと言われても、数字が減っただけのように見えてしまう。だから実際、5万人の観衆を目の前にした時の見え方ってどんな風なのかは、すごく気になりますね。その光景が多分、戦国武将が見ていた光景に一番近いと思うから。普通の人は観客側から見る機会はあるけれど、それは群衆側だからどちらかというと足軽目線なのかなと。でもステージ側から見るのは戦国武将の視点でしょう。そう考えると、岩谷さんはすごくレアな体験をしていますよね。普通、5万人の群衆を目前にすることなんてないですからね。

岩谷確かに…! 武将目線、考えたこともありませんでした。

今村では、岩谷さん個人としての目標は? 小説もお書きになっているんですよね?

岩谷はい、少し書かせてもらっていて、この連載も、小説と対談を交互に載せる形でやっています。

今村いいですね。なんといっても、書くことは生涯できますから。

岩谷そうですよね。僕の場合、ライブを終えてアドレナリンが出ている時、体は疲れているのに不思議と文章がぶわっと出てくるんです。翌日見直すと、すごく恥ずかしかったりするんですけれど。

今村その感覚、大切にした方がいいと思うな。あの経験をした時の文章はこれ、これを経験した時はこれ……と、いろいろな自分と出会っていけるから。それを重ねるうちに、「この時の自分が好きだな」が見つかると、それが小説の核になっていくと思います。あとはもう、ひたすら書いたら上達しますよ。

岩谷やっぱり、継続は力なりなんですね。

今村「読んで書く」を両方やれば、絶対できるようになります。そこからは自分の経験ですね。ドームで5万人の観衆の前に立ったことのある作家なんて他にいないから、そのうねりを描写できたら最強になれると思う。以前、僕は目で見た風景を全部文章化する訓練をしていました。岩谷さんも、ドームライブの後に思い出して、ステージで見たものを文章化してみたら? すごく練習になりますよ。

岩谷今、まさに小説家になるための訓練法のひとつを教えていただきましたけれど、今村さんは、九州で作家を育成するプロジェクトも始められたんですよね。

今村はい。宮崎県の椎葉村に住んで、最長3年間、お給料をもらいながら小説の修業ができるという取組みです。小説家としてデビューしたい人も、兼業作家から勝負して専業作家へステップアップしたい人にも参加してもらえたらと。小説の指導は、僕や編集者が行います。

岩谷すごいですね。それこそ『塞王の楯』に登場した、師匠から弟子へ受け継ぐ徒弟制度みたいじゃないですか。

今村ある意味、令和の徒弟制度になるのかもしれませんね。でも、岩谷さんたちも、LDHの中で同じような先輩後輩の関係がありますよね?

岩谷それはありますね。今、LDH所属のアーティストってどんどん増えているので、地元が一緒の先輩だとか、僕でいうと、ダンススクールで教えてくれた三代目J SOUL BROTHERSの山下健二郎さんの弟子みたいな感じになっていたりとかします。

今村今、LDH全体では何人ぐらいいるんですか?

岩谷タレントも含めると200名以上います。

今村そんなに! そりゃ、先輩後輩の関係も大変だ。そういえば岩谷さんのお名前「岩谷翔吾」っていうのは、本名なんですよね?

岩谷はい、グループには芸名を使っている人もいますけれど、僕は本名です。

今村本名で活動していて、困りません? 僕も「今村翔吾」は本名なんだけれど、作家の割にこんなに顔出して仕事すると思ってなかったから……。

岩谷今となっては、初期段階で変えておけばよかったかなと思うこともありますね(笑)。

今村本名だから、病院とか空港で、普通に名前呼ばれるよね。

岩谷呼ばれますね。

今村岩谷くんは若い子に人気だから特に困るんじゃないかな。僕の場合、ラジオをやってるせいか、声でバレちゃうことが多いです。僕も、ペンネームをどうにかすればよかったなと思いつつ、この名前を背負ってきたからもう仕方ない(苦笑)。「翔」という漢字は、人名で使えるようになったのが僕の世代くらいからなので、上の世代にはいないんです。それにしても「翔吾」って、著名な方では岩谷さん以外にあまり見たことがないんですよ。SNSで検索する時、特にライブのタイミングとかだと岩谷さんが沢山ヒットするので、僕も気になってました。

岩谷SNSでまでお邪魔しててすみません(笑)。

今村今後のことを考えると、何か区別の仕方を考えた方がいいかもね(笑)。みなさん、フルネームで呼んでくれたらいいんですけど。でも、岩谷くんが歳を取って「翔吾先生」とか呼ばれるようになったら――。

岩谷ますますかぶりますね(笑)。「どっちや!」ってなってしまいそう。今日はお忙しいなか、本当にありがとうございました。念願だったお話ができて、すごく楽しかったです!

【対談者プロフィール】
いまむら・しょうご
作家。1984年京都府生まれ。2017年『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビューし、同作で第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。18年『童神』(刊行時『童の神』に改題)で第10回角川春樹小説賞を受賞、『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞を受賞。20年『じんかん』で第11回山田風太郎賞を受賞。21年「羽州ぼろ鳶組」シリーズで第6回吉川英治文庫賞を受賞。22年『塞王の盾』で第166回直井賞を受賞。他の文庫書き下ろしシリーズに「くらまし屋稼業」がある。最新刊は『戦国武将を推理する』。

いわや・しょうご
1997年生まれ。2017年、総勢16名からなるダンス&ボーカルグループTHE RAMPAGEのパフォーマーとしてデビュー。映画『チア男子』への出演ほか、日本将棋連盟三段や、実用マナー検定準一級の資格取得など趣味多数。WebマガジンCobaltにてブックレビュー『岩谷文庫』を連載。また、朗読劇の脚本など、執筆活動の幅を広げている。現在「THE RAMPAGE LIVE TOUR 2024 “CyberHelix“ RX-16」を全国にて開催中。

書籍情報

『塞王の楯 上・下』

6/20発売・集英社文庫
定価 各880円(税込)

詳細はこちら

岩谷翔吾・初のブックレビュー小説
『君と、読みたい本がある』
本編は「青春と読書」で好評連載中!

【クレジット】
構成:増田恵子
撮影:西岡泰輝
ヘアメイク:Aki(KIND)
題字:岩谷翔吾(THE RAMPAGE)