対談ゲスト
今村翔吾(作家)
読書情報誌『青春と読書』で好評連載中の、ブックレビュー小説『君と、読みたい本がある。』。発売中の6月号では岩谷さんが「ぜひお会いしたいと思っていた」今村翔吾さんとの対談を掲載中です。歴史小説をあまり読んでこなかったという岩谷さんが夢中になった、今村さんの直木賞受賞作『塞王の楯』。その〝意外性〟から現代に通じる大切なテーマまでが語られる、白熱の対談本編は必読! そしてここでは、名前や出身地、ダンスなどなど意外な共通点を持つ〝翔吾同士〟、初対面とは思えない盛り上がりを見せた対談のアフタートークをお届けします!
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あらかじめ着地点を
決めずに書く執筆スタイルは
これまでのルーツとキャリアで
築いた今村翔吾独自のもの
岩谷『塞王の楯』のあの結末は、最初から決めていたんでしょうか?
今村僕は、基本的に何も考えずに書き出す方なんです。この連載で岩谷さんも対談されていた、凪良ゆうさんと仲良くさせてもらってるんですが、彼女はがっつり考えて、プロットを作ってから書くタイプ。でも、僕はえいやっとフリースタイルで書いてしまうんですよ。『塞王の楯』も、鉄砲と石垣が戦って……と思いながら書き始めたら、結局こうなりました。
岩谷書いている最中は、どこに着地するか分からないんですか?
今村正直言うと分からなかったです(笑)。だから、書きながら客観的に匡介(きょうすけ)と彦九郎(げんくろう)の動きを観察していましたね。そうすると、そのうちに僕の意志とは関係なく主人公たちが動き出すので。後半の台詞は、僕が言わせてるんじゃなくて匡介自身が言っているし、作者がそっちへ行くなよと思っていても匡介は行っちゃう。
岩谷そんなことがあるんですね。ちなみに、この作品……550ページ以上もあるボリュームですが、執筆にはどれぐらいかかったんですか?
今村これは雑誌『小説すばる』で連載していたので、二年ぐらいですね。ちょうど8本ぐらいの連載を並行していた時期でした。
岩谷えっ? 8本!? それで、これだけの登場人物が出てくる物語を書かれていた?
今村はい。当時は『塞王の楯』を書くターンに入ったら、匡介たちに会いにいって書く。そして次の連載の番になったら、そっちの登場人物たちに会いにいく……というイメージでやっていましたね。
岩谷よく、頭の中が整理できますね!?
今村でも、岩谷さんだって「よくそれだけの振りつけ覚えられますね!?」って言われません? 振りつけどころか、突然流れた音楽に合わせて即興で踊ったりするでしょう。感覚的にはそれに近いと思う。
岩谷なるほど……。
今村そのことについて「すごいですね」って人から言われたら「いやいや、慣れもありますから」とか答えるでしょう?
岩谷……確かに!
今村そういう感覚なんですよ。言葉を使うという意味では、ダンスのフリースタイルよりラップのフリースタイルに近いのかもしれない。読書経験で蓄えた語彙力と、自分がこれまでに会った人から得たサンプルモデル。僕にとっての小説執筆は、これを掛け合わせたフリースタイルって感じですね。
岩谷今村さんは、登場人物を書く時に具体的なモデルは立てる方ですか?
今村特定のモデルを立てるということはあまりやらないかな。でも、たまに特定の人が当てはまってしまうことはあります。ただし、主人公だけは、あまり具体的なモデルを考えない。モデルがいると、そのイメージに引っ張られちゃうから。
岩谷一方で、匡介に石垣造りを依頼する京極高次は、丸顔で、太い眉が離れていて……って結構具体的な容姿の描写がありましたよね。
今村あれは、実際に残っている京極高次の肖像画があんな感じなんですよ。現代って、普通に写真加工するでしょ。戦国時代も同じで、武将は肖像画を残すとき、絵師に命じてかっこよく描かせていたと思うんですけど、高次はやっていないとしか思えなくて……肖像画がめちゃくちゃかわいくて、この人、絶対に悪人じゃないぞっていう顔をしているんです(笑)。あと、元大名の末裔の方々に実際にお会いすると、みなさんすごく上品で優しくてキュート。名家というのは、きっと血筋じゃなくて家庭環境的に優しくなる傾向があるんじゃないかなぁと感じたこともあって、高次の人物像はそこからイメージを膨らませて書きました。
岩谷確かに高次、めちゃくちゃかわいいキャラですよね。僕、すごく彼が好きです。