2023年 ノベル大賞受賞作文庫化!

私のマリア 誰もがマリアに恋焦がれていた 殺してしまいたいほどにー

22023年ノベル大賞佳作受賞

わたくしのマリア 東雲めめ子(装画:西條ユリカ)

あらすじ

美しい女子高生はなぜ消えたのか!失踪からはじまる青春ミステリー!美しい女子高生はなぜ消えたのか!失踪からはじまる青春ミステリー!

全寮制の名門女子校白蓉女学院で“白蓉のマリア”と謳われる女子高生・藤城泉子が消えた。
事件か事故か、あるいは泉子の自由意思による失踪か。
動揺に追い打ちをかけるように、泉子の実家で放火殺人が起こり、犯人と目される大学生を15歳の少年が刺傷する事件が発生。
寮で同室だった鮎子は泉子を案じ、泉子の従兄の藤城薫と行方を追うのだが、薫は泉子がすべてを仕組んだと言い出して……。
彼女がいて、私がいて、それで完璧だったはずなのに。
従兄弟、幼馴染み、ルームメイト、王子…マリアの失踪に、やがて周囲は歪み始める――。

人物紹介

  • 三科鮎子

    三科鮎子

    白蓉女学院高等部一年生。泉子と寮の同室で、薫とともに泉子の行方を捜すことに…

  • 藤城泉子

    藤城泉子

    「白蓉のマリア」と謳われる三年生。容姿端麗、清廉潔白。突然行方不明になった。

  • 藤城薫

    藤城薫

    泉子の二歳上の従兄。一連の事件を泉子が仕組んだと疑い、泉子の行方を追うが…

  • 綾倉鈴

    綾倉鈴

    泉子の元同室生。喫煙など素行に問題が多く、同室を解消してほしいと申し入れがあった

ためし読みマンガ

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本編試し読み

昨日、マリアが消えた。
どこまでもうつくしく、清廉で純真な私たちのマリア。
私が最後に見たマリアはいつにもまして麗しく、まばゆい輝きを放っていたというのに。
「白蓉女学院です。この人を探しています」
いつも大人しい同級生たちが、駅舎に向かう人々に走り寄って声をかけた。生徒会から配られたマリアの写真を見せて、なにか心当たりがないか訊ねている。
快晴すぎるくらいによく晴れた七月の土曜日。ここ米原駅の東口では、二〇人ほどの白い制服の女生徒たちが尼僧服の引率教員とともに人探しに励んでいた。
白一色のセーラーワンピースに共布の白いタイ。襟と袖の細いラインも白で統一されている。シスターの卵のようにつつましやかな、中学一年生から高校三年生の少女たち。白い制服を規定通りに着て、髪型も乱れなく整えた生徒の顔はどれも真剣だ。
マリアが消えてしまったから。
白蓉のマリアこと、高等部三年の藤城泉子様。
白蓉女学院は、滋賀県長浜市の北東部―旧A町と呼ばれる自然豊かな農村地帯の、山々の麓にある全寮制の中高一貫女子校だ。明治期創設の歴史あるミッションスクールで、生徒数は中高合わせても二四〇名程度と少ないものの、令和の現在でも伝統と格式を重んじる名門お嬢さま学校として有名である。ドイツの修道会から派遣された尼僧によって設立された白蓉女学院の寮では、シスターがともに暮らして生活指導に当たっている。
先輩のことを名前に様づけで呼ぶのは白蓉の伝統のひとつだけど、きっとマリアのことはそんな規則がなくてもみんなそう呼ぶだろう。白蓉のマリアには「泉子様」と呼んでみたくなるような神聖な雰囲気がある。
学院寮は原則ふたり部屋だ。泉子様は高等部の三年生で、私は高等部の一年。泉子様と同室の後輩である私は、全校生徒の中でもっとも早くその知らせを聞くこととなった。
ひと晩明けても、まだ信じられない。マリアがいなくなったなんて。
泉子様の姿が最後に確認されたのは、この米原駅の構内らしい。
昨日の放課後、泉子様は新幹線に乗るために米原駅行のスクールバスに乗った。白蓉では申請すれば週末は親元に帰ることが認められていて、泉子様は毎週末、東京の田園調布にあるご実家へ帰省していた。
白蓉からはスクールバスが米原駅と長浜駅の二方面に出ている。昨日スクールバスに乗ったのは泉子様も入れて八名。もう一週間待てば長い夏季休暇に入るので、このタイミングで家に帰ろうと思う生徒は少なかったようだ。
泉子様はバスを降りて駅の構内に入り、改札のそばで在来線に乗る生徒たちを見送った。
ひとりで改札前のベンチに座る泉子様らしき姿を、駅員と売店店員が目撃している。
だけど、それきり泉子様の消息は途絶えてしまった。
ご家族は昨夜のうちに捜索願を出している。到着予定の時間を過ぎても迎えの車が待つ目黒駅東口ロータリーに泉子様が現れず、遅くなるという連絡もなかったので、すぐ学院にスクールバスの乗降履歴を確認して警察署に相談したらしい。捜索願を出した段階では、まだ無断外泊ですらなかった。
今月の末に十八歳になる娘に対して少し大げさというか、過保護な気はする。しかしそれだけいつも泉子様がきちんとしていて、そしてご家族から大切にされているということなのだろう。加えて泉子様の藤城家といえば、身代金目的の誘拐も想定されるような由緒ある家柄なのだ。こういうイレギュラーには常に素早い対応が必要とされているのかもしれない。
白蓉の生徒たちもマリアが消えたと知って動揺した。昨夜の段階で詳細を知っていたのは同室の私と生徒会のメンバーだけだったが、生徒会長の九条真琴様は火急の事態だと学院に訴え、シスターが引率するという条件のもと生徒会主体の捜索を行う許可を得た。
一方の行き先である長浜駅周辺の三手に分かれて、私たちは泉子様を探すことになった。
強い陽射しに炙られながら、白い制服たちは軍隊のように統率のとれた動きを続ける。
焦りがそのまま表情に出ている。マリアを見失ったという不安が、総数二〇〇名を超える生徒たちを突き動かしている。
マリアはどこに消えたのか。
あれほど清く正しい人を、私は他に知らない。泉子様はまさにマリアだった。

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著者プロフィール

著者
東雲めめ子
滋賀県出身。『形代の恋』で第207回短編小説新人賞を受賞。『私のマリア』で2023年ノベル大賞〈佳作〉を受賞、受賞作を改稿しデビュー。
可愛いものが好きで、最近は秋田犬の動画に癒されています。

そのほかの作品を読んでみる

  • 『形代の恋』第207回 短編小説新人賞 入選『形代の恋』
  • 『清らで妙なる朝露のごとき 私のマリア 番外編』『清らで妙なる朝露のごとき 私のマリア 番外編』

書籍情報

表紙
私のマリア
著者
東雲めめ子
装画
西條ユリカ
2024年4月18日(木)発売
ページ数:320頁
価格:792円(税込み)
ISBN:978-4-08-680556-8

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