2021年 ノベル大賞受賞作文庫化!
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- 「花は愛しき死者たちのために」特集柳井はづき
2021年ノベル大賞 準大賞受賞作
柳井はづき / 装画:香魚子
彼女は、
腐敗しない死体 。
あらすじ
硝子の棺に横たわる死せる美少女エリス。
彼女は決して腐敗せず、いつの頃から存在するのかもわからない。
棺は、黒装束の男に運ばれ、エリスは時代も国も超えてその姿を見せる。
ある時は親を知らない墓守の青年の前に。
またある時は友人の美貌に複雑な思いを抱く少女の前に……。
彼らはなぜ、エリスに惹かれてしまうのか。
その先に、破滅が待ち受けているとも知らずに。
人物紹介
花は愛しき死者たちのために親を知らない墓守・ヨゼ
生まれてすぐ墓地に捨てられ、墓守の老人に育てられた。
老人亡きあと、墓守の仕事を引き継いだが、ある日、硝子の棺に眠る
少女の遺体を預かることになる。
彼女に供える花を買うため、町に出かけたヨゼだが……。黒衣は躍る成金貴族の息子・セドリック
父親はいわゆる成金貴族で、社交界では肩身の狭い思いをしている。
だがある時、社交界でも一目置かれるアッシュフォード伯爵に、
「秘密の集会」へと招待されて……?五月の薔薇たち労働階級の少女・ドロテ
香水が名産の村で働く少女。香水会社の令嬢フランシーヌと、
いわば身分違いの友情を育んでいたが、近頃、フランシーヌは
婚約が決まったという。結婚すれば都会へ行ってしまう親友に複雑な
思いを抱くドロテの前に、謎めいた男が現れて……。青い瞳の肖像売れない画家・ギルベルト
ギルベルトはその夜、酒場にいた寡黙な男に強く惹かれ、
絵のモデルになってくれるよう頼みこむ。
カロンと名乗った男は意外にも承諾するが、「絵を描き終えたら、
あるモノを預かってほしい」という条件をつけてきた……。
冒頭試し読みマンガ
本編試し読み
天にまします我らが神よ。
どうか僕を憐れんでください。
僕は罪を犯しました。
どうしてこんなことになってしまったのでしょう。僕はただ、幸福だっただけなのに。
誰かを憎む心も、傷つけたいと思う気持ちも、ありはしなかったのに。
そこには、今までに感じたことのない大きな悦びがあるだけでした。
そして僕にとってそれらはすべて、主よ、あなたの恩寵でした。
僕の肥沃な、けれどまだ何の植物も育ってはいなかった心の庭に、あなたは一つの煌めく種を落とし、恵みの雨を降らせてくださったのだと僕は信じました。みるみるうちに僕の心には一本の薔薇の木が育ち、そこに咲いた美しい花は朝露を弾いて艶々と輝いていました。
この木を大切に育てていくことが自分の使命にすら思えた。薔薇の棘は時々僕の手を傷つけることもあったけれど、僕はその痛みさえも
甘く、愛おしいものに感じたのです。
これほどの悦びを与えてくださるあなたに、僕は毎日感謝していました。それなのに。
嗚呼、神よ。全能の主よ。
あの素晴らしき日々はあなたの御業ではなかったのでしょうか。
書籍情報

- 花は愛しき死者たちのために柳井はづき
- 2022年7月20日発売
価格:680円+税
ISBN:978-4-08-680458-5