2022年 ノベル大賞受賞作文庫化!

みるならなるみ シラナイカナコ この青春は、あなたをブン殴る

2022年ノベル大賞賞受賞作

20221220発売

このビル、
空きはありません!
オフィス仲介戦線、異常あり

森ノ薫装画:ゆき哉

集英社オレンジ文庫

あらすじ

入社以来、契約ゼロを続けていたオフィス仲介営業の咲野花。
ついに初契約かと思われた案件も押印直前で壊れ、とうとう営業から謎の男性早乙女さんの一人部署・特務室に異動になった。
特務室に仕事はなく、同期には蔑まれ、花は退職を申し出る。
だが早乙女さんから「査定に響く」という理由で慰留され最後に一つだけクライアントの希望に合致するオフィスビルを探すのだが……。
見つからない。どこにどれだけ電話をかけても見つからない。
これだけ探して、1件も見つからないなんてことある?
花の中で、何かが弾けた。
辞めたかった花の中で、エンジンがかかる音がした。
それが崖っぷち社員の反撃の始まりだった――!

人物紹介

  • 咲野花

    咲野花

    入社以来、契約が1本も取れない営業社員。
    押印直前の案件も壊れ、特務室に異動になった

  • 早乙女さん

    早乙女さん

    どんな仕事をしているのか不明だが、
    特務室マネージャー。アルパカに似ている。

目次

1章弊社としては大事なマロン

田岡ビルは本当に、ご希望に沿える唯一の物件だったんです

ビル名
田岡ビル
移転先の条件/特記事項

最も重視された条件は『一階であること』。宅配トラックを前づけし、エレベーターや 階段を経由せずに台車で搬入できるのが望ましい。他にも予算、エリアに細かい条件あり。
花が営業社員として最後に壊した案件。契約書を作り、さあ押印といった段階で、まさかの破談に。
初契約を祝う社内準備も水の泡。

2章どうぞ、ねんねんゴロゴロに

私が何か失礼なことをしてしまったんでしょうか

ビル名
青洋ビルディング
移転先の条件/特記事項

老朽化が進んだ本社ビルの移転。主力商品の影響で求人への応募も急増。優秀な人材に来てもらうにも、綺麗なビルの方がいいという考えから移転先を決定。
花が営業社員として、最初に壊した案件。条件交渉に成功し、あとは契約を進めていくだけという段階で、まさかの破談に。すごい新卒への期待も泡となって消えた。

3章幻をつかむような

この人、『今度空く区画は』って言いましたよね?

ビル名
スノータワー
移転先の条件/特記事項

ニーズは千坪前後のフロア。前に一度断念したスノータワーには、交渉は一切せず、予測できるよりはるかに高額な坪単価を提示してでも入居したい。
花が移転を止めさせた物件。しかし、結果的に……

オフィス仲介戦線、のぞき見!

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※試し読み用新聞、マンガです。
本編には含まれません。

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本編試し読み

 目の前で契約が壊れようとしている。
「そうとわかった以上は、この契約を進めることはできません」
 田岡オーナーは朱肉がついたままのハンコをケースにしまい、しわがれた声で言い放った。
 私の左隣に座るクライアント、ソーイングネットワークジャパンの吉峰社長は、
「そんなの困ります! 移転の手配もいろいろ進めてるんですよ」
 と声を尖らせる。浅黒い肌の上で、もともとつりぎみの眉が、さらに鋭くつっている。田岡オーナーは、威嚇なのか、ふんっと鼻の頭に皺を寄せては開いてを繰り返す。
 私は俯いて、自分の腕を軽くさすった。吉峰社長の怒りに、ちりちりと肘のあたりが焼けていくようだった。しかし燃え広がろうとしていた炎は、私の右隣から響いた関ヶ原さんの声でいったん鎮火する。
「お二方ともお気持ちはわかりますが、一度整理しましょう」
 動揺を感じさせない低い声。関ヶ原さんは私の直属の上司で、営業部隊を総括するマネジャーだ。一本の後れ毛もなく固められたツーブロックヘアが、黄色い電灯の下でぎらりと輝く。関ヶ原さんは向かいの一人がけソファで腕を組む田岡オーナーに言った。
「田岡様、契約しないとなりますと、ソーイング様から敷金の振込みは中止となりますが、よろしいのですか」
「ええ、私は構わないですよ」
「いやいや、僕らは構いますよ。契約書の読み合わせまでして……こんな直前に駄目だなんて、これって契約違反じゃないですか⁉」
「吉峰社長。厳密には、敷金の入金と契約書の調印が揃って初めて契約成立となりますので、今はまだ契約前のステータスです」
 賃貸オフィスの敷金は住宅とは比べものにならないほど高い。それはここ田岡ビルでも例外ではなく、十二ヶ月分―つまり一年分の賃料がこの後、入金される予定だった。
 吉峰社長を制するように、関ヶ原さんは訥々と説明を続ける。『ステータス』は、案件の進捗確認のときに関ヶ原さんがよく使う言葉だ。緊迫した空気とは少しちぐはぐなように思えたけれど、田岡オーナーも吉峰社長も紛れ込んだ横文字などどうでもいいようで、話はもつれあいながらも契約キャンセルへと着地する。
「こんな不親切なビル、契約しなくてよかったですよ」
「こっちこそ最初からおたくが入居するのはどうかと思ってたんだ」

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著者プロフィール

著者
森ノ薫
神奈川県横浜市在住。「ホテルアムステルダムの老婆」で第215回短編小説新人賞入選、
同年の最優秀賞を受賞(「森かおる」名義)。「早乙女さん、特務です」で
2022年ノベル大賞<大賞>受賞。改稿、改題した『このビル、空きはありません!
オフィス仲介戦線、異常あり』でデビュー。

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著者プロフィール

このビル、空きはありません!
オフィス仲介戦線、異常あり
森ノ薫
2022年12月20日発売
価格690円
ISBN978-4-08-680483-7

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