君と読みたい本がある

岩谷翔吾(THE RAMPAGE)

対談ゲスト

凪良ゆう(作家)

読書情報誌『青春と読書』で好評連載中の、ブックレビュー小説『君と、読みたい本がある。』。発売中の2月号では、最新作『星を編む』が話題の作家・凪良ゆうさんと岩谷翔吾さんとの対談を掲載中です。凪良さんの著書『汝、星のごとく』『星を編む』『滅びの前のシャングリラ』について、岩谷さんが熱く切り込む対談本編は必読。ここでは、本編に収録しきれなかった凪良さんの執筆裏話や、エンタテインメントに対する凪良さん・岩谷さんそれぞれの考えなど、読み応え満載のアフタートークをお届けします。

CONTENTS

何万人の歓声を浴びる歌姫Locoと
岩谷翔吾の共通点
「選ばれた者の孤独」とは?

岩谷発売中の読書情報誌『青春と読書』2月号では、『汝、星のごとく』『星を編む』について、作家・凪良ゆうさんにお話を伺った対談をお届けしています。こちらのweb記事では、誌面に収録しきれなかったフリートークを大ボリュームでお届けします。凪良先生の執筆秘話も満載ですよ!

凪良フリートークも、よろしくお願いします。

岩谷本編では『汝、星のごとく』シリーズを中心にお話ししましたが、『滅びの前のシャングリラ』についても伺いたくて。

凪良嬉しいです。岩谷さんは、歌姫Locoの章が一番印象的だったと『岩谷文庫』のレビューで書かれていましたが、やはり苛酷な芸能界で生きておられるので、地続きで読んでもらえるのかなと思っていました。

岩谷はい、Locoの章はすごくリアルに読めました。

凪良レビューでは「何万人もの前でライブをした自分が、夜ホテルに戻って一人でカップ麺をすすっていると、どっちの自分が本当の自分なのか分からなくなる」とも書いておられましたよね。これは、選ばれた人にしか分からない孤独なんでしょうね。

岩谷ふとライブの後に感じる孤独みたいなもの、自分では今まで名前のつけようがなかった感情が、凪良さんの文章でひもとかれたような感覚になりました。

凪良Locoの場合は、「歌姫」という偶像に自分を当てはめていく話でしたが、岩谷さんの活動は、等身大の自分自身をスターとして見せていくもの。自分のままでスポットライトを浴び続けるつらさというのは、きっとLocoとはまた違うしんどさなのではないでしょうか。

岩谷そうですね。僕たちの仕事は、人が作ってくださるものだと思っています。ライブステージもそうですし、メディアに出演する時も、カメラマンさんがいて、メイクさんがいて、たくさんの人が動いてくださるから、カッコよく見せられる。それを忘れて自分ありきになったらもうダメだなと思っています。

凪良そういう視野の広さもあってか、岩谷さんはすごく読み方の幅が広いですよね。『滅びの前のシャングリラ』は、家族の物語なんですが、主人公家族とは血が繋がっていない藤森さんの存在が、「家族の形は一つじゃない」ということを提示しているんだとレビューで言ってくださって、なんて鋭い読み方をされているんだろうと驚かされました。構想の時点ではLocoをカットして、純粋に友樹たち家族の中だけで完結させる手もあったのですが、でも、やっぱりLocoという存在は外せませんでした。世界が滅亡して、地球上の人類が全員死んでしまう時には、神がかった存在が必要だと思って。Locoは歌手であり巫女。最後に神を降ろす存在として描きたかったんです。ライブって、何万人の聴衆のエネルギーを体に受けて、それを跳ね返すぐらいのパワーでパフォーマンスを行わなければならない。それはもう、神を降ろすことに等しいと思うんです。それぐらい強い者でなければ、全人類の死には立ち向かえないと思ったんですよ。あのラストは、私も担当編集さんも、すごく好きなシーンです。

岩谷人類滅亡なんてそれこそバッドエンドですけれど、あのラストはすごくきれいで、神々しい感じがしました。

凪良岩谷さんがレビューで「滅亡の物語だけど、僕はこの物語はハッピーエンドだと思いました」と書いてくださったのを読んで、すごくありがたかった。私はこの『滅びの前のシャングリラ』を、希望の物語だと思って書いていたので。

岩谷凪良さんの作品は、設定が結構ハードだったり、「普通とは何だ」というメッセージ性が強い作品が多いと感じているんですが、一方で、どこかに希望の光だったり、ほんのりとした人の優しさみたいなものが感じられる。ご自身は、ハッピーエンドとバッドエンド、どちらがお好きなんですか?

凪良あまりにも分かりやすいハッピーエンドは、書き手としては好みではないです。かといって重いだけの話というのも苦手で、どちらにも偏らない着地点を探っています。『汝、星のごとく』も、悲恋の物語だという人もいれば、これは希望の物語だと言う人もいます。

岩谷「本当は希望の物語として書いたんだけどな……」っていうようなギャップはなくて、本当にフィフティ・フィフティなんですか?

凪良最初からコメディと決めているならハッピーなところに落としますけれど、だいたい、どっちつかずにふわっと着地する物語が多いんじゃないかな。終末を描いているのに希望が残るとか、すごく身勝手なんだけど優しいとか、そういう相反するもののバランスを取りながら着地させています。

挫折を通して、人は成長する。
岩谷翔吾が『汝、星のごとく』
の主人公・櫂に思うこと

岩谷対談本編では、北原先生の過去が気になっていたという話をしましたけれど、「星を編む」で掘り下げられた絵理さんも、人間臭くてすごくいいキャラクターですよね。貪欲さとか、相手に勘違いされる感じとか。

凪良「星を編む」は、私の担当編集者の人たちが「怖い」って言ってましたね。編集者の仕事として分かるところもあるし、結婚生活の面では絵理の旦那さんがサイコパスで怖いって。

岩谷あんなに淡々と言われると……ね。

凪良絵理夫婦が直面する問題は、ある意味すごく現代的だと思います。絵理の夫は、仕事をしたい女性に対してすごく理解がある男性ではあるのですが、一生相手のためだけに生きていくこともできないわけで。

岩谷『星を編む』にはいろんな登場人物が出てきますし、一人ひとりの人生にフォーカスされているので、いろいろ考えさせられました。人生はいろんな選択の連続ですが、流されて生きるよりも「自分がどう生きたいか」。それが困難な道であっても、自分の選択を信じたいなと思わされました。

凪良岩谷さんご自身は、周りに反対されたことに対して自分の意見を貫いた経験はお持ちですか?

岩谷はい。僕はパフォーマーとして活動していますが、もともと親には反対されていました。高校受験のタイミングでも、父からはいい高校、いい大学へ……と言われていたんですが、自分としてはやっぱりダンスの道に進みたい夢を持っていたので、親を説得するために猛勉強して、芸能コースがある高校に特待生入学したんです。

凪良すごいじゃないですか!

岩谷あそこで受験に成功していなかったら、もしかしたらTHE RAMPAGEになれていなかったかもしれないです。

凪良それはすごく大きな選択でしたね。今は成功なさっているから、ご両親も認めている感じなんでしょうか。『汝、星のごとく』の櫂は学生時代から一気に漫画家として花開いて、そこからまたズドーンと落ちていく人。『滅びの前のシャングリラ』のLocoとはちょっと違いますけれど、櫂も「華やかな世界の成功と挫折」というところを共通項として、岩谷さんに地続きで読んでもらえるところがあったのかなと思います。

岩谷そうですね。僕がTHE RAMPAGEになったのが高校生の時なので、感覚的にも高校時代で編集者に声をかけられた櫂とほぼ一緒なんですよ。

凪良なるほど。THE RAMPAGEは最初から順調だったんですか? それとも、櫂のように芽が出ない時期もあったんですか?

岩谷結成して1年で活動休止になりました。今でこそ笑い話ですが、当時はもうデビューできないというところまで行ってしまって。基本的にLDHのグループは結成したらその年にデビューするんですが、僕らだけ、結成してからデビューまでに3年のブランクがあるんですよね。活動休止期間中はスタッフ業務をしていました。その中でいろいろ気づかされることがあって、人として大きく成長できたと思っています。人間、挫折から学ぶことの方が多いですね。

凪良その若さでそんな経験をして、しっかりと自分の身になっているのがすごい。厳しい状況でも、THE RAMPAGEのみなさんは頑張りぬいたんですね。

岩谷嫌になってはいましたけどね(苦笑)。でもHIROさんが、調子にのっていた僕たちを、デビューもしないのに面倒見てくれたのが大きくて。だから、いまもHIROさんに恩返しするまでは辞められない、HIROさんを安心させるまでは頑張らなきゃ、というのが原動力になっています。

凪良素晴らしいですね。人間って、自分のためだけでもダメ、人のためだけでもダメ。両輪回っている状態が、一番頑張れると思います。

岩谷目先だけじゃなく、長い目で育成してくれたLDHには本当に感謝しています。

凪良ご本人が頑張ったことはもちろんですが、やっぱりチームとか仲間がいるというのはすごく強いことですね。櫂が一人で抱え込んで意固地になってしまうキャラクターだったので余計にそう感じます。

岩谷本編にあった「手ぶらで生まれる子どもと、両手に荷物をぶら下げて生まれる子どもがいる」という描写が刺さりました。挫折や痛みを知っている人には、きっとこの描写がすごく刺さると思います。

離島に住む人の閉塞感は、
現代社会に通じるものがある。
岩谷翔吾と凪良ゆうが考える、
SNSとの向き合い方

岩谷ちょっとパーソナルな話に寄りすぎたので、『星を編む』に話を戻しますね。『汝、星のごとく』も『星を編む』も、花火の使い方がすごく印象的な作品でした。『汝』のラストの花火と、「波を渡る」の最後にも花火が登場して……。

凪良やっぱり、暁海には櫂と見た花火を、北原先生とも見てほしかったので。でも、彼女の目に映る花火は、同じ花火でも違う輝きなんだろうなと。

岩谷あんなにきれいな花火の描写、初めて読みました。

凪良嬉しいです。日本の花火ってすごく繊細で、フィナーレを飾る最後の大玉は、きらきらしながら光が落ちていって、余韻が残る感じのものが多い。あれをみんなに連想してほしかったんです。

岩谷「夜の海に光が帰っていく」という書き方にも、「うわっ、ここでかましてくるか凪良先生!」と思って。最後の最後で重たいボディを喰らいました。

凪良あの花火は今治の「おんまく花火」なんですが、花火の一発一発がすごく大きいんですよ。そして最後の一発はさらに大きくて、本当に、燃え尽きて海に落ちる寸前まできらきら輝くんです。

岩谷今治には、実際に行かれたんですか?

凪良はい。書く前に取材に行って、去年も今年も行きました。実は、『汝』の執筆中は新型コロナの真っ最中で花火大会が中止になったので、想像で花火を書いたんですけれど、『星を編む』の時は見られました。岩谷さんは瀬戸内へ行かれたことはありますか?

岩谷7年ぐらい前に、THE RAMPAGEの仕事でしまなみ海道へ行ったことがあります。瀬戸内の海はすごくきれいで穏やかですよね。でも、凪ぎすぎていて、夜になるとちょっと怖い。

凪良そう。夜の瀬戸内の海は、波音がしないんです。ただただ真っ黒な空間が広がっていて、静かすぎて、引きずり込まれそうな恐ろしさがあります。

岩谷そんな海の潮の香りまで想像できました。ちなみに、なぜ瀬戸内を舞台にされたんですか?

凪良私の担当編集者が今治出身だったんです。ちょうど新型コロナの時期で取材しづらかったこともあって、地元の縁を頼って取材させてもらって。結果的に今治、瀬戸内を舞台にできてすごくよかったです。

岩谷離島を舞台にしたことで、島の閉塞感なんかも描き出されていましたよね。僕はどちらかというと都会育ちなので、島がどんなところかは分からないんですけど、読んでいると「こういう社会は現実にあるんだろうな」と思わされました。

凪良島の閉塞感って、実際にあるんですよ。長崎の五島列島に住んでいる友人がいるんですが、スーパーでいつもより高い食材を買うと、翌日「昨日お客さん来てたの?」と聞かれるんですって。それぐらい狭い場所で、たまに怖くなると言ってましたね。

岩谷この本で描かれているのは島の閉塞感ですけれど、僕は現代社会、特にSNSにも同様の閉塞感があるように思いました。噂話もすぐにSNSで拡散されますし、規模は違うけれど同じじゃないですか?

凪良確かにそうですね。

岩谷今は日本も世界も、一つの島の閉塞感に似たものがあるんじゃないかなと思います。

凪良なるほど。だから読者のみなさんは、島に縁がない人でも、あの閉塞感を分かってくれたのかもしれないですね。

岩谷凪良さんは、SNSについてどういう捉え方をされていますか?

凪良自分でも公式アカウントは持っていますけれど、偏った世界だなと思っています。いい面もあるけれど悪い面も大きい。好きなことを発信しているようで実は気を遣っているし、これを言ったらどういう反応が来るだろうかと思うと下手なことは書けないし、結構窮屈ですよね。岩谷さんはどうですか?

岩谷僕もあまり得意じゃないです。立場上、ファンの皆さんに向けて発信しなくちゃいけないんですけれど、あんまりやりすぎると考え方が数字に偏ってしまう。

凪良数字にですか?

岩谷いいねの数とか閲覧数ですね。これを載せたら閲覧数が上がるとか、写真よりもショート動画を載せた方が見てもらえるよとか、フォロワーが増えるよとか。数字に焦点を当てすぎると、大事なものから軸がずれてしまう気がしています。僕らTHE RAMPAGEは、あくまでライブパフォーマンスがベースなんです。ライブ空間で会場にいるお客さんと自分たちって、嘘いつわりがどこにもない。SNSで切り抜かれ編集されたものじゃなくて、ライブステージに立っている僕たちのパフォーマンスこそがリアルで、そこにフェイクは全くないわけです。だから、たとえどんな噂や憶測があったとしても、ライブ会場でパフォーマンスする僕たちこそがTHE RAMPAGEだと思ってほしいですね。

凪良そうだと思います。SNSの写真や動画を見たら、裏の方が本当らしく見えてしまうけれど、アーティストの皆さんの「表」はやっぱりライブパフォーマンスですよね。SNSで私的なところを見せすぎると、表の妨げになることがあるような気がします。そういう意味でSNSって、厄介な代物ですね。私は、SNSで個人的なことはあまり呟きません。私が伝えたいことは全て本の中に書いてありますし、みなさんが本を読んでどんな印象を抱いて、何を言ってくださっても全然構わないんですが、それ以外のところで誤解されるようなことはしたくないなと思っているので。

岩谷それ、すごくわかります。

凪良SNSでの発言がきっかけで本業に悪影響が出るのは避けたいですよね。

岩谷でも、そういうことも本当にありますから……仰ること、めちゃくちゃ分かります。

凪良ただ、岩谷さんだったらライブ、私だったら小説というように、私たちには表現する場があります。でも、普段淡々と日々を生きている方にとっては、SNSでしか自分の言いたいことを言えないということもある。そういう方々が息抜きの場としてSNSを楽しまれるのはいいことだと思うんですけれど、SNSが自分の一番表現したい場ではない人にとっては、特に重きを置くべきものではないような気がします。

岩谷すごく核心を突いた言葉ですね。

凪良とはいえ、今やSNSって不可欠なものになりつつあるので難しいですけど。

岩谷そうなんですよ。この前のメンバー会議でも「スマホの画面の後ろに世界の半分がある」っていうプレゼンがあって。だからSNSを筆頭に画面上のコンテンツをもっと強化しましょう、という話だったんですが、僕は結構古くさい考え方の人間なので、さっき言ったように直接会ってのものこそ全てじゃないかと思っていて。今はもう半分は画面上にあるのかって、ちょっと面食らったんですよね。

凪良ファンの方にとっては身近なのはSNSで、ライブはもう特別なものになってしまっているということ?

岩谷コロナを経て、世の中のライブへの向き合い方がちょっと変わった気がしています。コロナ以前はライブって、日常の延長線上でテーマパークへ行くような感覚だったと思うんですけれど、今はみなさんの腰が重くなっているし、本当に行く価値があるものなのかと問われている感じ。前のような熱狂を取り戻すために、自分たちも日本全国を回ったり海外でもライブをさせていただいてます。

凪良コロナの間に配信ライブが一気に増えましたし、アーティストのパフォーマンスを画面越しでしか見られなくなったから、みんなそれに慣れてしまったんでしょうか。

岩谷そうですね。多分、ライブがなくても人は生きていけるんですよ。でも、エンタテインメントって、形には残らないけれど人の心に希望や元気を届けられるものだと思うんです。自分たちは、それを体ひとつで伝えるしかないので、昨日も大阪で踊っていました。

凪良エンタメを届ける作家のひとりとして、とても共感する言葉です。

岩谷凪良さんは京都にお住まいなんですよね。また大阪でライブする時には、ぜひ見にきてください。

凪良ぜひ! 私も久しぶりに興奮したいです。

「音楽が、小説の世界に
連れていってくれる」
音楽とともに綴られる凪良ゆうの作品

岩谷凪良さんは、音楽もお好きだと伺いました。

凪良はい、好きですね。小説を書くときに、音楽を入口にするんです。たとえば『汝、星のごとく』なら、暁海や櫂など一人一人のプレイリストがあって。

岩谷ええっ? そうなんですか。

凪良特に、『汝、星のごとく』は一人称で書いていたので。暁海の話を書く時は、暁海のプレイリストをかけて、そこからぐっと入っていく。

岩谷暁海のプレイリストにはどんな音楽が入っているんですか?

凪良ロックもジャズもクラシックも、ジャンルは多岐にわたります。一人の人間をイメージしたプレイリストだけど、悲しい気分や嬉しい気分や、その時々に合わせて音楽をかけるので、どのジャンルって決められないんですよ。

岩谷邦楽と洋楽も、全部ミックスで?

凪良はい。そこは全然関係なく。昔は自分が楽しむために音楽を聴いていたけれど、今は小説を書く時のドアのような感覚で聴いています。早く作品の世界に潜りたくて。

岩谷そのプレイリストは、どうやって決めるんですか?

凪良音楽のサブスクサービスを使っているんですが、最初に何曲か「これがいいな」という曲をリストに入れて聞いていると、「あなたにはこれもおすすめ」っていう感じでほかの曲も提案してくれるじゃないですか。すると、結構な確率で「これは好き」という曲に出会うんですよ。もちろん、全然ピント外れの曲が出てくることもありますけれど。聴けば聴くほど精度も高くなるから、「今の気分ならこれが聞きたい」っていうドンピシャな曲がおすすめされたりする。

岩谷そうなんだ。すごいですね。

凪良サブスクを使うようになって、新しい音楽との出会いが増えました。

岩谷櫂と暁海のプレイリストの内容は、結構違うんですか?

凪良違いますね。暁海はだんだん強くなっていく様を書いていきたくて、櫂はだんだん余計な鎧を剥いで、弱くなっていくところを書きたいと思っていたので、暁海は女性ボーカルが多く、櫂は男性ボーカル中心で、結構メロウな方に流れました。

岩谷いつかそのプレイリストの中に、THE RAMPAGEも入れて頂けたら。こういう雰囲気の曲が欲しいってリクエスト頂けたら、選曲して送ります!

凪良ありがとうございます、嬉しいです! ところで、岩谷さんは執筆活動もされていらっしゃると伺いました。『青春と読書』でブックレビューと小説を掛け合わせた連載をされているとお聞きしましたが、他にはどんなものをお書きになるんですか?

岩谷これまで、長編小説を二作書きました。今年の年始には、THE RAMPAGEの楽曲をテーマに僕が脚本を書いて、それをメンバーが演じる朗読劇もやらせてもらったり。

凪良そういえば、ここ数年ぐらいで、アーティストと作家のコラボレーションがすごく増えましたよね。歌をテーマに作家が書いた短編、何度か見かけたことがあって、いろんなやり方があるんだなと思っていました。ご自身のグループの小説を書くというのは、なかなかすごい試みですね。

岩谷ありがとうございます。でも、自分が書きたいことは、またちょっと別にありまして。僕、佐藤究さんの『テスカトリポカ』みたいな作品がすごく好きなので……。

凪良ハードめな系統の作品を書きたいんですか?

岩谷はい、今書いているのがそうです。特殊詐欺をベースにした作品で。

凪良それはまた、今までにない岩谷さんの一面が見られそうですね。

岩谷そうですね。だから、実はあんまりファンの方には読んでほしくないんです(笑)。いきなり殺意バリバリの文章から始まるので。

凪良でも、そういうギャップは読み手としてはすごく楽しみですよ。例えば、グロテスクな小説を書かれる方に実際お会いすると、すごくたおやかで優しそうな方だったり。岩谷さんの作品だって、ファンの方は「この人は内面にどれだけ激しいものを抱えているんだろう」と興味深いでしょうし、著者である岩谷さんについての予備知識なく読んでも楽しいと思う。ぜひ読みたいです。

岩谷ありがとうございます。本業のダンスとは、全然違う方面の活動なんですけれど。

凪良いろんな才能をお持ちなんですね。そして、難しいことに挑戦されてもいる。

岩谷ブックレビュー小説の連載も、構想段階では「これは勝てる!」という勝算があったんですけどね(苦笑)。

凪良そうなんですよね。書き始めると、こんなはずじゃなかったのに……ってなる。『汝、星のごとく』の時も、何度担当さんに泣き言の電話をかけたことか。

岩谷そうなんですか!?

凪良はい。もう、書くのがしんどくて自信がなくなってしまって。

岩谷どのあたりがつらかったんですか?

凪良櫂と暁海が離ればなれになって、途中から二人ともにっちもさっちもいかない状況になっていく。あそこは本当につらかったです。私は、登場人物の中に潜って書くタイプなので、暁海と櫂が苦しいと、自分も苦しくなる。だから、暁海が「わたしは自らの意志で、心のままに櫂の元へ行く」と選択する、あのシーンを目指して、匍匐前進のようにジリジリ書き進めていきました。

岩谷そういう時、聴く音楽は変わるんですか?

凪良変わらないです。だって、変に明るい歌を聴いてしまったら、人物の気持ちを追えなくなってしまうので。その人物が苦しい時は、輪をかけて苦しい音楽を聞いて、自分もずどーんと落ち込むようにします。ほかにも、暗くて悲惨な映画をずっと流したりしていました。

岩谷気持ちを強めるんですね。

凪良そうなんです。部屋のカーテンも閉めっぱなしにして、暗い中で書いていました。

岩谷書いている間ずっとですか!?

凪良いえいえ、さすがに山場の間だけですね。『汝』も『星』も難航しましたが、2023年の内に出せてよかった。これで物語は完結です。

岩谷書店でこの2冊が並んでいるのを思い浮かべると、感慨深いものがあります。

凪良2冊並べて頂くと美しさが際立つ装丁になっています。

岩谷『汝、星のごとく』と『星を編む』の並び、多くの方の目に留まってほしいです。今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

凪良こちらこそ、ありがとうございました。

岩谷次回はぜひ、凪良さんのプレイリストにTHE RAMPAGEの曲が入りますように!

凪良次の新作には、ぜひ入れさせてください。

【対談者プロフィール】
いわや・しょうご
2017年、総勢16名からなるダンス&ボーカルグループ・THE RAMPAGEのパフォーマーとしてデビュー。映画「チア男子!!」への出演ほか、日本将棋連盟三段や、実用マナー検定準1級の資格取得など趣味多数。WebマガジンCobaltにてブックレビュー『岩谷文庫』を連載。また、朗読劇の脚本など、執筆活動の幅を広げている。

なぎら・ゆう
作家。1973年生まれ。2007年に初著書が刊行され本格的にデビュー。BLジャンルでの代表作に連続TVドラマ化や映画化された「美しい彼」シリーズなど多数。17年に『神さまのビオトープ』を刊行し高い支持を得る。著書に『流浪の月』(20年本屋大賞)『わたしの美しい庭』『滅びの前のシャングリラ』『汝、星のごとく』(直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補、23年、2度目の本屋大賞)『星を編む』等。

岩谷翔吾・初のブックレビュー小説
『君と、読みたい本がある』
本編は「青春と読書」で好評連載中!

【クレジット】
構成:増田恵子
撮影:西岡泰輝
ヘアメイク:上野綾子(KIND/岩谷さん)
題字:岩谷翔吾(THE RAMPAGE)