君と読みたい本がある

岩谷翔吾(THE RAMPAGE)

対談ゲスト

石田夏穂(作家)

読書情報誌『青春と読書』で好評連載中の、ブックレビュー小説『君と、読みたい本がある。』。発売中の4月号では、デビュー作『我が友、スミス』が166回芥川龍之介賞候補作に挙げられた作家・石田夏穂さんと岩谷翔吾さんとの対談を掲載中です。前代未聞の「筋トレ小説」が生まれたきっかけについて、岩谷さんが鋭く切り込む対談本編は必読。また、こちらでは、「筋トレ」という共通語をもつ石田さんと岩谷さんが想像以上にエキサイト(!?)した、話題満載のフリートークをお届けします。

CONTENTS

ダンサーには、ダンサーとしての
トレーニングが欠かせない。
岩谷翔吾が語る、
ライブ前の体作りとは。

岩谷みなさん、こんにちは! 「君と、読みたい本がある。」、今回は前代未聞の筋トレ小説『我が友、スミス』の著者・石田夏穂さんとの対談をお送りします。対談前半戦は好評発売中の『青春と読書』4月号をぜひチェックしてみてください。僕も仕事柄、トレーニングが欠かせない日々を送っていますが……。

石田岩谷さんは、ライブ前にコンディション作りで運動されるそうですね。具体的にどんなことをされるんですか?

岩谷ライブの3ヵ月ぐらい前からトレーニングを始めます。最初の2ヶ月は筋力をつけるために筋トレです。胸の日、背中の日、足の日と3日かけて順番に全身の筋肉を鍛えていきます。ライブの半月前になると、心拍トレーニングを主にやります。スピンバイクを30秒間全力で漕いで、30秒間休んでを10本とか。200ぐらいまで一気に心拍数を上げて息が上がった状態から、すぐに心拍が下がって息が整うように鍛えておかないと、2時間半踊り続けられないので。

石田すごいですね!

岩谷スピンバイクやスライドボードを使って体を動かしながら、ひたすら心拍トレーニングです。

石田素人から見ると、ダンサーの方のライブの準備って、ひたすら踊るのかと思っていましたが、コンディション作りが大事なんですね。ダンスの練習とトレーニングの比率って、どんな感じなんでしょう?

岩谷トレーニング7割ぐらいですね。

石田そんなにトレーニングするんですか?

岩谷はい、踊るのはみんなプロなので、リハーサルでまとめちゃう。そこへ向かうまでの体作りに時間をかけています。目に見えない努力ですが、その努力を重ねるほど、ステージに出た時、観客に本当の感動を伝えるパフォーマンスにつながるので。

石田なるほど……!

岩谷ダンスの練習って、変化が目に見えて分かりやすいんですが、その手前にある地道な体力作りの方が、ステージに出た時自然と滲み出るんですよね。それがTHE RAMPAGEというか、EXILE流のライブへの取り組み方なのかなと。

石田ちなみに、ライブ前って食事管理もされるんですか?

岩谷僕は食べるのが大好きなので、「食べた分トレーニングしよう」って思うぐらいで食事管理までやらないんですけれど、人によっては「ライブ前のトレーニング期間はお米を食べないでいて、当日のお昼には食べる」というように厳しく管理する人もいますね。中でも、メンバーの武知海青は「Summer Style Award 2019 ROOKIE CHALLENGE CUP」の「Stylish Guy」部門で総合優勝するぐらい鍛えてます。

石田この写真の方ですか? おお、すごいキレキレですね!

岩谷海青が大会に出る時の準備を見ていたので、『我が友、スミス』の大会へ向かう流れのところはすごくよく分かりましたし、自分自身もトレーニングは好きなので、理解度は高かったと思います。普通は、筋トレ、ボディビルに打ち込む人の行動や精神性を読んで想像する、といった読み方になると思うのですが、僕にとっては人ごとではありませんでした(笑)。

石田当事者として読んでいただいてありがとうございます。ところで素人目線で恐縮ですが、武知海青さん、あそこまでガチガチに鍛えて、本業に影響しないんですかね?

岩谷どうだろう。確かに大会前は食事制限がすごかったし、あれだけカリッカリになると体力が落ちて風邪を引きやすくなるし、ちょっと大変そうではありました。ライブで2時間踊るのってマラソンと一緒なので、ある程度体力のガソリンを積んでおく必要があって。海青もあそこまで追い込んだ状態ではマラソンは走れないと思うんですよ。やっぱり、ある程度「見せる筋肉」と「実用的な筋肉」を見極めて鍛えていかないとね、という話をしています。そういえば、『我が友、スミス』の中に「背中は鏡がないと見えない部位だから、背中を頑張る人は一線を越えたトレーニー」というような描写があって、「確かに、見えないところをやらなきゃな」って考えさせられましたね。

石田胸筋や腹筋はパッと見えるのでよくやりますけど、ちゃんと身体の裏側も鍛えてる人は偉いと思いますね。

岩谷僕もやっぱり胸筋派なので、胸の日はめっちゃ楽しいです。ベンチプレスでバーンとあげると気持ちいい(笑)。あと脚! 僕、脚トレ嫌いなんですよ。でも『我が友、スミス』を読むと「人間の半分、つまり私達二分の一は、脚なのだ。だから、どれほど辛くても、脚トレにはやる価値がある」って出てきて、背中も脚もちゃんとやらなきゃって圧を感じましたね。

石田それは本物の人だ(笑)。

疲れているはずなのに2日目の方が楽、
見えないはずのメンバーの姿が分かる……
岩谷翔吾が感じるライブの不思議

石田岩谷さんの話を伺って、パフォーマーの方も筋トレするというのは意外でした。ライブで筋肉痛になることはあるんですか? ふくらはぎが痛いとか。

岩谷下半身はライブに至るまでのトレーニングで相当鍛えるので、それはあんまりないですね。強いて言えば上半身が筋肉痛になります。肩周りとか、肩甲骨のあたりとか…。

石田それは、普段あまり使わないところだからですか?

岩谷はい。ダンスってトレーニングで鍛えるのとはまた違う筋肉を使うせいか、そういうところが筋肉痛になることはあります。

石田なるほど。ライブもツアーだと長期間に渡りますよね。途中で筋肉痛になって翌日がつらいということはありますか?

岩谷あります。めっちゃつらいです(笑)。ライブの翌朝起床すると、体重が10トンぐらいになったんじゃないかと思うぐらい体が重くて。ベッドから起き上がれない。

石田ええっ!?

岩谷……なんですけれど、翌日の方が体は動くんですよね。基本ライブって土日で2Daysの公演が多くて、2日目の方が体は動きます。

石田そうなんですか?

岩谷体は疲れているんですけれど、パフォーマンスとしては2日目の方が質がよくなる傾向があると感じます。もちろん初日も精一杯頑張ってるし、決してライブのクオリティにムラがあるわけではないんですけれど、何というか2日目の方が心臓が慣れるというか。

石田リピート効果みたいな感じでしょうか?

岩谷はい。なので、1日目も2日目も全力なんですけれど、2日目の方が疲れに対してのアプローチは楽という統計が僕の中にはあります。

石田それは実に興味深いですね。

岩谷不思議なもので、初日が明けた朝って本当に体が重くて、起きた瞬間「もう無理!」って泣きたくなるぐらいなんですが、いざライブが始まると「あれ? 昨日より体が動くな」ってなるんですよね。

石田週末土日でライブを終えて、翌週もライブの予定がある場合、平日はどんな風に過ごすんですか?

岩谷ライブを終えたら、とりあえずビールをカチ込んで(笑)、一旦オフを楽しみます。それから、ちょっとアスリート目線で真面目な話をすると、軽く汗をかく程度の有酸素運動で疲労物質の乳酸を流して体をケアします。あと、ライブ後は氷風呂に10分ぐらい入りますね。そこで血管を一度ぎゅっと収縮させてから上がると、血管が広がって体温が上がって、乳酸が流れるんです。

石田サウナで言う「整う」みたいな感じですかね。それは岩谷さんのやり方ですか? それともEXILE式のやり方ですか?

岩谷EXILE式ですね。先輩から代々伝えられてて。氷風呂、めちゃくちゃ冷たいから、毎回「入りたくない!」って思うんですけれど、入っておくと翌日が楽なんですよ。……って、だいぶ話題が『我が友、スミス』の話から離れてませんか?(笑)

石田すみません、私が知りたいから、ついがっついてしまいました(笑)。ちなみに、ライブで踊っている時、自分たちの姿って見えているんですか? 例えば、ボーカルの方はイヤモニ(インイヤーモニター)をつけて、音を聞きながらやっているじゃないですか。でも自分たちが踊ってる姿は、やっぱり見えていないですよね?

岩谷はい。でも、さすがにグループ結成10年も経つと、肌感で分かります。後ろで踊っているメンバーや、ライブステージで一番端に僕がいる時、反対側の端にいるメンバーのことも、目では見えないしアイコンタクトもないけれど分かる。見えない位置にいるメンバーが気合いの入ったダンスをキメて、その熱量が伝わると、自然に全体の士気が上がったり……言葉ではうまく説明できないんですけれど、16人が自然にひとつになれたと感じる瞬間があって、そういう時「ライブは生き物だな」って感じます。

石田私もステージのことはうまく言葉にできないと思っていて『我が友、スミス』でも何も書きませんでした。何も書きませんでしたというより、何も書けませんでした。主人公のU野がステージに上がって、次の場面ではもう控え室にいる。

岩谷確かにそうなっていましたね。

石田U野はそもそもステージに慣れていない人ですけど、スポットライトを浴びてステージに立っている時のことって、そう簡単には言葉にできないだろうなあと。

留まるところを知らない
石田夏穂の好奇心が、
岩谷翔吾の「本音」を暴きだす!?

石田また話は変わるんですが、岩谷さん、筋トレで好きな種目はありますか? 先ほど胸筋をやるのが好きと仰っていたので、やはりベンチプレスがお好きなんですか?

岩谷はい、ベンチプレスは好きですね。あと、懸垂も結構メンバーに褒められるんですよ。「スムーズ過ぎてクリオネが泳いでるみたいだ」って。

石田それはすごい(笑)。クリオネみたいに無重力感があるんですね。何回ぐらいやるんですか?

岩谷自重ではさすがにそんなにできないですけれど、アシストチューブをつけて10回を3セットぐらいはやります。その後ラットプルダウンとかデッドリフトとかもやるのが背中の日。

石田トレーニングする時間は決まっているんですか?

岩谷いえ、事務所のジムなのでやりたい放題です。トレーナーさんも常駐していて、結構スパルタ。

石田ジムに行かないと事務所に怒られたりするんですか?

岩谷いえ、そこは自己管理です。自分のパフォーマンスとの向き合い方は人それぞれですし、逆にトレーニングをやらない方がコンディションがいい人もいるかもしれませんから、強要されることはないですね。

石田事務所のジムにはプールもあるんですか?

岩谷さすがにそれはないな(笑)。でも、日焼けマシンはあります。『我が友、スミス』にも日焼けマシンは出てきましたけれど、立って入る方です。

石田横になるのと立つのがありますよね。自分も一度入ったことがありますけど、持ち手や吊り革に変につかまると、そこだけちょっと焼けなかったりして。

岩谷一度入った経験を作品で書かれたんですか? それにしてもよく観察されましたね……。

石田マシンに入ってる間って何もすることがないから、中はこういう感じなんだなあと、ずっと考えてました(笑)。

岩谷日焼けマシンなんて日常すぎて、そこにあるおかしさに気付いてなかったです。読んで「確かにスタンディングの日焼けマシンはちょっと宇宙船っぽいな」って思いました。

石田LDHの方は、日焼けの度合いも自分で決めるんですか? すごい日焼けしてる人もいらっしゃれば、岩谷さんは色白ですよね。

岩谷それも自己裁量ですね。昔のLDHって「黒くて髭が生えてて筋肉!」ってイメージだったかもしれませんが、そこは時代とともに柔軟に変化してます。

石田それから、ダンサーというお仕事について……やっぱりスポーツ選手のように、年齢の壁みたいなものはあるのでしょうか?

岩谷それはあると思います。やっぱり今の20代のダンスのキレは40代では出せなくなるでしょうし、その寿命をちょっとでも延ばすためにトレーニングしてるというのはありますね。

石田これはちょっと訊きにくいことですが、何歳ぐらいがダンサーの潮時とか、そういうのはあるのでしょうか?

岩谷リアルな話をすると、40代ぐらいなのかなと。別に、トレーニングを続ければ踊り続けることはできるんですけれど、LDHは第一線のパフォーマンスで魅せるというのが信念なので、「お客さんに満足いただけないものは見せられない」という無言のルールみたいなものはあると思っています。

石田厳しい世界ですね。

岩谷本物の感動を届けるために、という会社の信念がありますから。

石田質問を重ねてしまって申し訳ないのですが、一口にダンサーと言っても、振りつけを覚えるのが速い人と、時間がかかる人というのはいるのでしょうか?

岩谷それは全然ありますよ。

石田岩谷さんはどちらですか?

岩谷僕は、瞬発的な振り覚えはあまりいい方ではないです。一度振りを落として(教えて)もらっても、その場では踊れない。でも、一晩頭の中で寝かせておけば、翌日には脳の中で整理されて踊れるようになりますね。

石田ダンスって、自分の目でいくら見ても、自分で同じようにやるのは絶対に無理なので、本当にすごいと思います。

岩谷こればっかりは経験というか、それこそ動かしたことがない関節を動かさなきゃいけないこともあるんですが、やっていくと自然にできるようになるんですよね。

石田それは岩谷さんの「ダンサー小説」でぜひとも読んでみたいですね。今まで使ったことのない関節を動かせるようになった話。

岩谷ありがとうございます(笑)。でも、改めて考えるとめっちゃ難しいと思うんですよね。上手いダンサーと下手なダンサーの違いとは、みたいな話ってもう感覚でしかなくて。言葉でどう説明したらいいんだろう。

石田それは私も小説について同じように思います。実のところ、小説に上手い下手はなく、あるのはただの好きと嫌いだと。それはもう感性の違いでしかないと思います。

岩谷確かにそうですよね。

石田何が人を「好き」と思わせるのか、それは全然わからないですけど(笑)。

岩谷難しいですよね……。本当に、ダンスの話を書きたいって言ったけれど、どうやって書けばいいんだろう(笑)。今日は本当にありがとうございます。お話、めちゃくちゃ面白かったです。

石田何かすみません。対談と言いつつ、私が自分の訊きたいことをひたすら訊いてしまいました(笑)。こちらこそ、今日は本当にありがとうございました!

【対談者プロフィール】
いしだ・かほ
1991年埼玉県生まれ。東京工業大学工学部卒。2021年「我が友、スミス」が第45回すばる文学賞佳作となり、デビュー。同作は第166回芥川龍之介賞候補にもなる。他の著書に『ケチる貴方』『黄金比の縁』『我が手の太陽』。

いわや・しょうご
2017年、総勢16名からなるダンス&ボーカルグループ・THE RAMPAGEのパフォーマーとしてデビュー。映画「チア男子!!」への出演ほか、日本将棋連盟三段や、実用マナー検定準1級の資格取得など趣味多数。WebマガジンCobaltにてブックレビュー『岩谷文庫』を連載。また、朗読劇の脚本など、執筆活動の幅を広げている。

岩谷翔吾・初のブックレビュー小説
『君と、読みたい本がある』
本編は「青春と読書」で好評連載中!

【クレジット】
構成:増田恵子
撮影:西岡泰輝
ヘアメイク:上野綾子(KIND/岩谷さん)
題字:岩谷翔吾(THE RAMPAGE)