選考結果

第76回

応募テーマ
タイトル

『九龍城レストラント』

あらすじ

イギリス統治時代の香港。高級ホテルのコック見習いという求人に騙され(?)九龍城塞の一角にある大衆食堂「鸞鳳茶餐廳(Ranpo Restaurant)」を切り盛りする少女・ビビアンは、まかないの食べすぎで太ってきたのが最近の悩み。彼女の老板(ボス)のアンディは英国人の母と香港人の父を持つ少年で、16歳のビビアンよりどう見ても年下ながら一人で食堂を経営しつつ、店奥に私立探偵事務所を構えている。探偵事務所にはビビアンの先輩助手である元・優秀な警察犬のアルフレッドも在籍しているが、謎多き若すぎる少年探偵に舞い込む依頼は決して多くはない。事務所の赤字を支える食堂の仕事に加え、迷子の猫探しから痴話喧嘩の仲裁、アルフレッドが食べてしまった人肉饅頭疑惑の解明まで探偵稼業の助手にも駆り出され、ビビアンは今日も過労死寸前!?

今回の講評

第76回イラスト大賞は、WebマガジンCobaltからオレンジ文庫公式HPへ引っ越しての開催となりました。今回のテーマ『九龍城レストラント』では、あらすじで明確に提示されている「九龍城塞」を作中に取り込めているかが選考のポイントになりました。既に失われて久しい場所ですが、往時のそこがどんな場所で、どんなイメージを持たれていたかなどは、ネット等を活用すれば取材できます。細かな装飾で「中華っぽさ」を演出するとに留まらず、「九龍城塞」の造形やその雰囲気を表現しようとしている作品は、テーマをより掘り下げて表現しようとする意欲が感じられ、より高い評価につながりました。

大賞

該当作なし

入選
梨本つみれさん(千葉県)

「九龍城塞の大衆食堂」「食べ過ぎでぽっちゃりしたヒロイン」「少年探偵」「探偵助手の元警察犬」「猫探し」「人肉饅頭」など、テーマに盛り込まれた要素を余すことなくイラストで表現していて、しかもモチーフとしての配置が巧みであることが高く評価されました。舞台となる九龍城塞の雑然とした雰囲気を、カラー・モノクロともにうまく背景に取り込めている点も高評価です。さらに表情づけ+ポーズでビビアン、アンディのキャラがダイナミックに表現されており、この作品を読んでみたい気持ちにさせられます。

佳作 あと一息

    MiTaKa Youさん
    (北海道)

    犬の身体をフレームに見立てたカラーの構図にセンスを感じます。人物のポージングも考えられていて、躍動感がある点が◎。ビビアンの表情も魅力的ですが、一方でアンディのキャラ造形がちょっと弱いかも。カラー・モノクロとも「イギリス統治時代の香港」の雰囲気がなく、現代が舞台の作品に見えてしまう点は気になるので、物語の設定をイラストに落とし込むことをもう少し意識しては。

    八橙さん
    (兵庫県)

    表情もスタイルも、ビビアンのキャラ造形がとても魅力的です。オリジナリティのある髪型もよいですね。カラーは背景にうっすら配された九龍城塞の雑然とした無彩色さと、店内の真っ赤な装飾の対比が秀逸でした。惜しいのは犬の耳。ユニークな配置ではありますが、この位置は文庫になった時「オビ」で隠れます。書籍になった時のことまで想定し、重要なアイテムは隠れる位置に置かないなど考えられると、より実践的な力が身につくでしょう。

佳作

    葵さん
    (千葉県)

    カラーの大胆な配色、モノクロではコマ割り風の構図で複数のシーンを配置しながらキャラクターを見せるるやり方、ともにセンスを感じます。人体のデッサンにやや違和感がある点、ところどころ線が粗くなっている点がもったいないので、改善を意識してみては。

    ないしさん
    (東京都)

    テーマの設定をカラー・モノクロともしっかり盛り込めていて、モノクロは見開きのページで食堂/探偵事務所を描き分けているのがユニーク。一方、カラーで「ビビアンがアンディを肩にのせている」ポーズは設定を考慮すると現実味が薄いので、もう少し構図を練るとよいでしょう。

    もぽろさん
    (神奈川県)

    モノクロのコミックイラストとしての完成度の高さに脱帽。構図、トーン処理の陰影ともに完成度が高いです。その一方でカラーは人物以外が惜しい。モノクロは背景なしで成立する描き方ですが、カラーはもう少し背景を描き込む意識を持ってみては。

    はやしまんさん
    (岐阜県)

    まず、絵柄が個性的で目を惹かれました。特にモノクロは、人物の表情もポージングも練られていてとても魅力的。一方、カラーはややのっぺりとした塗りで、人物の生気がやや乏しく見えてしまう点が気になるので、イキイキとした人物を描くことにもトライしてみるとよいでしょう。

    Shihoさん
    (福井県)

    Shihoさんの絵柄は、カラーもモノクロもコントラスト強め、時に輪郭線に頼らず階調差で見せる独特の描写を確立しているのが強み。カラーの構図は時代感をやや無視していますが、マップアイコンを用いるアイデアなど非常に「うまい」と感じさせられました。

    うさぎ大福さん
    (三重県)

    カラー、モノクロとも独特の個性と描写に圧倒されました。ですが、描線も塗りもまだまだ粗さが目立ちます。人体デッサンや背景の建造物、小物類などは描き続けることでもっと上達するはず。基礎力をつけた時この個性がどう変貌するのか、楽しみです。

    百木梓さん
    (大阪府)

    アルフレッドの犬種をチャウチャウにしたのは、中華風を踏まえたうまいアイディア。カラーは人物も背景もしっかり描けています。ただし、モノクロは線の粗さ、描き込みの薄さなどが気になるので、双方の完成度を揃えることを意識してみてはいかがでしょう。

    稲猫ネムさん
    (兵庫県)

    カラーはオビのかかる部分に重要なものを持ってこない「文庫の表紙」として配慮された構図になっていて◎。「アルフレッドが人肉(?)饅頭を食べるくだりにフォーカスしたモノクロも面白いです。九龍城塞の要素を盛り込めていれば、さらに完成度が上がったかも。

    サイユさん
    (広島県)

    繊細なカラーの塗りがとても魅力的。それゆえに、背景の文字が一部フォントをはめ込んだままなのはもったいないので、細部まで気を抜かず仕上げましょう。モノクロは、毛筆風の描線に勢いがありよかったです。キャラ造形は設定とややずれているのでご一考を。

もう一歩の方

meii(千葉県)/マメネコ(埼玉県)/じょり(東京都)/栃尾(東京都)/七峰さち(東京都)/はまち(東京都)/田中舞(静岡県)/あずきあんこ(大阪府)