あらすじ
平安後期。
「葡萄病み−えびやみ−」という謎の疫病が猛威をふるう京の都。
多数の庶民が命を落とす中、宮廷でもまた、東宮(皇太子)三人が立て続けに死亡するという前代未聞の事態が起こり、貴族たちは恐怖と混乱に陥っていた。
そこへ、大斎院と呼ばれ、強力な予言力をもつ賀茂の老巫女から
神託が届けられる。
大斎院いわく、このたびの疫病の災いは皇族の男子に集中している、
そこで次の東宮には一時、皇女を立てるべきである、
女東宮がしばらく皇太子の座を守れば、神仏の加護により、
皇族男子の死は必ずや止まるであろう──とのことだった。
帝の兄であり、実質的にこの国を支配している上皇、八雲の院はこの神託を
受け入れることを決定し、ただちに女東宮の候補となる数人の皇女たちが選び出される。
都から離れた宇治の地で、両親を亡くし、双子の弟である映の宮と、
妹の貴の宮とともに人々から忘れ去られた寂しい暮らしをしていた
十六歳の火の宮も、そのうちの一人だった。
女東宮候補となった火の宮を待つ、
試練とは───。
人物紹介
- 火の宮◉ひのみや
- 宇治の田舎で暮らす十六歳の内親王。
早くに両親を亡くし、頼れる後見の親族もない。
侍女の五百重の助けを借りながら、
養蜂などを行いなんとか生計を立てている。
ときおり、髪を結い、弟の衣装を借りて
「映の宮」として外に出かけていく。
おおらかで楽天的で、やや無鉄砲な性格。
- 貴の宮◉あてのみや
- 三歳年下の火の宮の妹。
火の宮とは親友のように仲良し。思慮深くしとやか。
- 映の宮◉はゆるのみや
- 火の宮の双子の弟。
花のような美少年だが、やや気難しい。
- 普賢◉ふげん
- 狼と野犬の血を引く
火の宮の愛犬。
犬としては規格外に大きいが、
穏やかで賢い雄犬。
- 八雲の院◉やくものいん
- 帝の兄であり、実質的にこの国を支配している上皇。
彼が賀茂の神託を受け入れることを決定し、
女東宮の候補となる皇女たちが選び出された。
- 蜻蛉の宮◉あきつのみや
- 帝の伯父で、一番の側近といわれる人物。
若くして出家し、法親王となった。
怖いほどの美貌として知られる。
冒頭試し読みマンガ
キーワード
- 一葡萄病み
- この数年、京の都を襲う病。
感染率・死亡率が非常に高く、激しい悪寒、頭痛、嘔吐、下痢をともなう高熱に苦しめられる。その後、山ブドウ状の赤紫色の発疹が、頭部・顔面を中心に全身に広がり、睫毛、眉毛などの体毛も抜けてしまう。たとえ命が助かっても、痕が残ることも多く、人々はこの病を強く恐れている。原因不明ながら、特に上流階級における死者が異様に多い。
- 二春秋院
- 八雲の院のおわす上皇御所。
「第二の宮廷」として、帝の御所を凌ぐほどの栄華を誇る。広大な敷地内にある「雷光殿」と呼ばれる一風変わった空中楼閣が、東宮位争いの舞台となる。
- 三五人の姫君たち
- 女東宮候補として集められた、容姿も気質も異なる五人の姫君たち。
女東宮の座に意欲を見せる者もいれば、消極的な者も。それぞれの真意とは――。