第10回

私事なので世の中にお伝えしてはいなかったが、昨年、祖父とペットのウサギが立て続けに亡くなった。祖父は病気が見つかってから、ウサギは十三歳というかなりの高齢を迎えてから。それぞれの死に対して確実に心の準備をしていたつもりだった。しかし、実際はどちらも私の心の準備を遥かに超えるインパクトがあり、今でも少ししこりが残っている。

あのときに、この小説に登場する「日日是終幕(にちにちこれしゅうまく)」があったら何かが違ったのかと思う。

物語は、タイトルからわかるように「終活」をテーマにしている。自分の人生をどのように終えるか、終えたあとに何をどのように残すのか。それらをサポートする会社「日日是終幕」で働くことになった二十五歳の女性・山田(やまだ)がエンディングプランナーとして、社長の兼重(かねしげ)のもとで、終活に関わる人々と向き合っていく。

山田と同じ二十五歳の私にとって、終活というものは自分から少し遠く、仄暗(ほのぐら)いイメージがある。そんなテーマの小説を読みきれるのだろうかという不安さえあった。

しかし、そんなイメージや不安は、物語に引き込まれていくなかで気がつけば払拭(ふっしょく)されていた。

突然姿を消した友人を探す小学生、「死にたい」と世の中に発信する女子高生、終活の依頼人の情報を決して明かさない弁護士など、一口に終活と言っても、山田が向き合う人々は様々だ。

年齢も性別も、人の数だけプランがある。終活の本質はそれぞれが生きている人生と向き合うことだと気がつく。

この物語は、合間にポップな言葉を挟みながら、心温まるエンターテインメントとして終活とは何かを教えてくれたのだ。

祖父の葬式は良いものだったと今でも家族でよく話す。祖父への感謝と愛情が詰め込まれた時間を、祖母や両親が中心となって作り上げた。しかし、私はその流れに身を任せるばかりで何もできなかったのではないかと不安になった。

ウサギは、きょうだいのなかで私だけが偶然帰郷していたときに亡くなった。呆然とする両親の隣で、ペット葬儀の業者を調べて比較し、電話予約をし、諸々の手筈を整えた。今度は自分がなんとかしようと思った。業者さんは丁寧に送ってくださった。しかし、私が急(せ)かされるように物事を進めてしまったことも事実で、ウサギにとって幸せな葬儀だったのかとやはり不安が残った。

二つの不安に包まれ、自分がちゃんと悲しみきれたという自信もない。

本作を読みながら「祖父やウサギは、空の上からどう思って私を見ているのか」「彼らの声やヒントが残っていたら」と思ってしまう弱い自分がいた。

そのときに、終活は本人のためだけではなく、残された人のためにもなるのだと気づけた。

この物語のおかげである。

タラレバを言って嘆いてもなんとかなるわけではない。祖父とウサギのために、自分の心を彼らと共にし続ける。そんな想いが芽生えて少し周りが明るくなった。

皆さんも、本作を通して、自分と周りの人の人生に想いを馳せてみてほしい。

さよならにうってつけの日 エンディングプランナーの備忘録
森ノ薫さよならにうってつけの日エンディングプランナーの備忘録
発売中・集英社オレンジ文庫
定価825円(税込)

おおとも・かれん●1999年10月9日生まれ、群馬県出身。雑誌「Seventeen」で専属モデルを務め、現在は「MORE」専属モデルとして活動中。「今日、好きになりました。」(ABEMA)ではレギュラー見届け人を務める。近年はドラマ「正しい恋の始めかた」(EX系/2023年)で主演を務め、ドラマ「フィクサーSeason3」(WOWOW/2023年)、「トークサバイバー2」(Netflix/2023年)、「厨房のありす」(NTV系/2024年)などに出演。

大友 花恋