これまでの受賞作品
第71回
応募テーマ
タイトル
『男もすなるものかきを』
あらすじ
中宮・賢子に女房として仕える源頼子は、『源頼綱』というペンネームで男を装って書く小説が宮廷で大流行中の人気作家。彼女には、自分が頼綱とは言い出せないとある事情がある。頼綱の正体を知る数少ないひとりである賢子の援助により、夜を徹して新作の執筆にとりかかる頼子だったが、ある満月の晩、愛猫の『翁丸』がどこからか桜の枝をくわえてくる。そこに括り付けられていたのは、恋文かと思いきや頼綱宛のファンレター!? 送り主は青年貴族に身分を偽っているが、賢子に見せると筆跡で帝なのがバレバレだと見抜く。頼綱の弟子になりたいという帝に、絶対に女であるとバレたくない頼子は通信講座を提案するが、いざやりとりを始めると彼の文才は壊滅的で……。
今回の講評
第71回コバルト・イラスト大賞のテーマ作品『男もすなるものかきを』は、平安時代の宮中を舞台にした作品。十二単や衣冠束帯を身につけた雅なキャラクターは人気の高いモチーフで、衣装や髪型、小物類など平安風俗の描写に力の入った作品が多く見られました。一方、「広く知られているモチーフなので描きやすい」という安心感があるためか、あらすじに記述されている「平安装束の男女+猫+桜」をストレートに描いた作品が多く、やや画一的な作品が多かった傾向も。わかりやすいモチーフで作品を描く際、どのようにして自分らしさを訴えるべきか、という新たな問題も見つかりました。
大賞
該当作なし
入選
しょうやさん(愛知県)
藍系と桃系の2色に絞り込んで描いたカラーイラスト。極彩色になりがちな平安ものの画面をあえて2色で描くことで、かえって個性的に仕上げられており目を惹かれました。現在の流行りを押さえた絵柄で、違和感なく平安風の人物に仕上げられている点も好印象です。一方、カラーとモノクロで、男女の顔の角度・表情が同じになっているのがもったいない。2点の作品を並べてみたときのバリエーションを意識して作品を制作するとよいでしょう。
倉秦さん(広島県)
モチーフが満載された今回のテーマにあって、倉秦さんのカラー作品は、あえて女主人公の表情にフォーカスした構図を選んでいる点にたくらみを感じます。描線の美しさや主線の色、抑えた色調など、作品全体からヒロイン・頼子の柔らかな魅力が伝わりました。モノクロではカラーと対照的に物語の「要素」が細かく描写されており、ストーリー性を感じさせる構図になっている点も評価されました。次回作にも期待しています。
佳作 あと一息
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seryuさん
(北海道)美男美女を麗しく描くイメージが強い平安もので、あえてのオヤジキャラ(帝?)やデブ猫を描きコミカルな作品をぶつける意欲に驚かされました。迷いのない描線やカラーの塗り、モノクロのトーン仕上げなど、全体として非常にこなれていて、安定感が伝わる点も◎。あえて指摘するならば、衣装や背景などが和風と中華風の折衷になっており、狙いがあるのか考証不足なのかが気になります。
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瑛一さん
(千葉県)カラーの構図が素晴らしい。水に映った寝殿造の建物、文机に向かう人物は現実は女性、水面に映っているのは男性の姿で、「男を演じる女性作家」という物語の主軸が見事に表現されていました。あえて「水鏡」の側がメインの構図を選んでいる点も秀逸。モノクロも画一的になりやすい装束姿の女性を描き分けられている点がGoodですが、カラーに対してやや描き込み不足の印象があるので注意してください。
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ペキォさん
(兵庫県)繊細な印象がある平安ものでも、ブレることなく自分の絵柄できっちり描ききっている点に意欲を感じました。太めの描線には迷いがなく、大胆な中にも細部までしっかり描写されています。モノクロは陰影のつけかたが非常に上手なのですが、カラーはキーポイントの猫が花と衣装に挟まれて目立たなくなっています。配色を再検討してみては。
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WEST POTATOさん
(岡山県)WEST POTATOさんのイラストは、キャラクター全員に親しみを感じさせる愛嬌があるのが大きな強み。「目は口ほどに物を言う」ように、台詞の描写がない単体のイラストでありながら、見る者に何かを語りかけているように感じられます。カラーの俯瞰で見おろす構図は個性を感じさせますが、人物と小物の角度などやや違和感がある点は注意しましょう。
佳作
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あけやさん
(埼玉県)男女とも人物の表情に、いい意味での色気があり魅力的です。カラーでは、背景の桜を省略しながら描き、人物をしっかり立たせているのも好印象。一方で、装束や小物など、実際にはこういう形にならないと気になる点も。描く前にある程度考証をおすすめします。
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架月七瀬さん
(埼玉県)平安ものらしい華やかさのある絵柄。眉墨で描いた頼子の眉の表現が、時代にのっとっていながらも個性的、デフォルメされた翁丸も表情や体格がユニークでキュートです。ぼかし効果の多用は、背景や細部を描かずごまかしているように見えてしまうので気をつけてください。
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7:24さん
(埼玉県)オリジナル平安として、しっかり咀嚼できています。人物の表情や猫の表現など、思い切った現代的なコミカルさの中に、霞文や装束など平安モチーフが違和感なく溶け込んでいますね。ただし、カラーの背景に描かれた襖は平安時代にはまだ一般的ではないのでご注意を。
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花咲心月花さん
(埼玉県)カラーは絵巻物風に見おろす構図が平安ものの雰囲気を高めていて◎。細い描線を迷いなく重ねた繊細な筆致も印象的です。人物は細部まで丁寧に描かれているのですが、背景や細部に、やや描写不足に見えるところも。描写の濃淡は意識しつつ、丁寧な仕上げを心がけて。
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夕陽みかさん
(埼玉県)作品全体が非常にくっきりとしており明瞭に描かれています。女性と猫の表情が非常に魅力的。一方で男性キャラはやや平板な表情なので、もう少し工夫が欲しいところ。あえての表現かもしれませんが、男性を短髪で描くと平安ものとしてのリアリティが薄れる点は意識してください。
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あおみ現場さん
(東京都)独特の身のこなしや柔らかさが表現できている黒猫、非常に上手です。女主人公の頼子は表情を含め魅力的に描けているのですが、男性が女性に対してやや目立たない印象になっています。特にカラー作品で、男性の描写にあと工夫を期待します。
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中春ぽんちさん
(東京都)中原ぽんちさんの作品は、思い切ったデフォルメが選考で注目を集めました。何故猫が風呂敷を背負っているのか、なぜ帝と虎が組み合わせられているのか…? やや不条理感もありますが、勢いがあるのは確か。この独特の感性を大切に、描写の技術を磨いてください。
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彩 壱月さん
(神奈川県)大人っぽい絵柄で、カラーの塗りもモノクロのトーン仕上げも、ひとつひとつ丁寧に仕上げられている印象があります。モノクロ、ショックを受けた頼子の深刻な表情がかえってコミカルでGood。絵柄がリアル調なので、装束を柔らかく描きすぎている点は少し気になります。
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落影回収さん
(神奈川県)太い筆で勢いを持たせて描いた線画に、一度見たら忘れられない印象があり非常にユニーク。全体としてかなり線が省略されていますが、意図的に整理されたものであることは伝わります。キャラクターの表情がしっかりお芝居しているところもよいです。この個性を育ててください。
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酒粕さん
(神奈川県)頼子を儚げ・優雅な女性として描く作品が多い中で、酒粕さんは「勝ち気な頼子」というキャラ造形がユニークでした。筆で一気に描いたような勢いのある描線も個性的です。ただし、モノクロはその勢いが粗さに見えてしまうのでもう少し線を整理して。トーン仕上げも練習してみては。
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なじょさん
(神奈川県)デフォルメの利いたとても可愛らしい絵柄です。頼子の明るい表情、あえて美男子キャラにせず朴訥とした空気を醸し出している帝のキャラに好感が持てました。絵柄の特性もありますが、人物の頭に対して手が極端に小さいなどデッサンに気になる点が。練習を重ねて!
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細川おうぎさん
(愛知県)モノクロの構図や仕上げが非常に慣れていて、陰の表現などハイレベルで完成度が高いです。一方で、今回はカラー作品の描線・仕上げともやや粗い印象。装束の柄の表現、素材をそのまま貼り付けただけではやっつけ感が大きくなってしまうのでもう少し工夫してみては。
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稲猫ネムさん
(奈良県)カラーでは人物をストレートに美しく描き、モノクロではコミカルにと振れ幅を大きくとり、全く違うテイストのイラストを描けている点が◎。猫のデッサンがやや気になります。猫が背景要素ではなくキャラとなる作品では、動物のデッサンも重視されるのでご注意ください。
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ヤナギヨミさん
(広島県)カラーは色を絞り込むことで、人物の表情に自然と視線を誘導できる構図になっているのがよいですね。設定を独自に掘り下げ、それに基づいてキャラクターをデザインしている点も説得力がありました。装束など、細部に「雰囲気」で描いている感が。制作前に資料を確認するなどしてみましょう。
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フジカワさん
(宮崎県)カラーでは今回唯一の手描きイラストでの応募。水彩独特の美しいにじみがとても美しく技術の高さが窺えます。一方、デジタルで描かれたモノクロは、まだ描き慣れていない雰囲気で、双方の完成度のばらつきが気になりました。デジタル描画のテクニックを磨くとよいでしょう。
もう一歩の方
澤也(北海道)/花紙現代(埼玉県)/もとまきやひ(東京都)/moriko(東京都)/めりこ(神奈川県)/よしひか(神奈川県)/サンチョス紫苑(新潟県)/あめのまち(愛知県)/MAMAKARI AKARI(京都府)/馨月あき(兵庫県)/花柳悠愛(福岡県)