2022年 ノベル大賞受賞作文庫化!
- 「このビル、空きはありません!」特集森ノ薫
- 「双蛇に嫁す」特集氏家仮名子
2022年ノベル大賞
カズレーザー賞受賞作
2023年2月16日発売
双蛇そうじゃに嫁かす濫国後宮華燭抄らんこくこうきゅうかしょくしょう
集英社オレンジ文庫
- 一気読み必至の異国情緒あふれるファンタジー小説でした。
特にラストが予想を超えており、そうくるのか!?と衝撃を受けました。
ハッピーエンド、大団円が好きな方…申し訳ありませんがおすすめしません。
が、それでも面白いので読んでいただきたいと思う小説でした。
暁慶のシリンに対する不器用な優しさにきゅんきゅんしながら多くの方にぜひ読んで頂きたいです。 フタバ図書TSUTAYAGIGA祇園店 山﨑美代子さん - 壮大なファンタジーを読んでしまった!!凛として力強く、心身ともに揺さぶられた。
敵、味方、関係なく、大国とこの時代を生きるキャラクターたちすべてに惚れ込んでしまった。 旭屋書店新越谷店 工藤雅子さん
草原の民・アルタナの族長の娘、シリンとナフィーサ。
異母姉妹ながら共に育ち、容姿も双子のように瓜二つの2人だが、
ある日、父はシリンとナフィーサを本当の双子に仕立て上げ、南方の大国・濫に輿入れさせることを告げる。
濫国は双子信仰が盛んであり、折しも当代の皇帝も双子だった。
その彼らが、双子の娘を後宮に探し求めているというのである。
草原の和平のためアルタナを離れ、長い旅の末、濫国の王城・永寧宮にたどり着いた偽りの双子姫。
シリンは弟帝の暁慶の後宮に迎え入れられ、『杏妃』なる名を与えられるが、
初夜の床にて「未来永劫、お前を抱くつもりはない」と言い放たれてしまう。
故郷の花嫁衣装も、名前も、全てを奪われ、体を繋がぬまま濫の妃となったシリン。
彼女の運命は、やがて大いなる時代の奔流に呑み込まれていく——。
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シリン
活発で気が強く、弓と騎馬が得意。ナフィーサとは腹違いの姉妹だが、容貌は双子のように瓜二つ。
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ナフィーサ
気が優しく刺繍と料理を愛するが、芯の強い性格。シドリという許婚がいたが…。
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暁慶(ぎょうけい)
濫国皇帝。燕嵐の双子の弟だが顔は似ていない。後宮の誰にも触れないことで有名だが、シリンを妃に選ぶ。皮肉屋。
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燕嵐(えんらん)
濫国皇帝。暁慶の双子の兄で、ナフィーサを妃に選ぶ。文武に優れ、人望の厚い君主。
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狼燦(ろうさん)
シリンとナフィーサを迎えに来た美しい容貌の宦官。暁慶の忠臣で、ただならぬ噂も…?
見渡す限りの草原を、一頭の馬が駆けていく。栗毛を太陽にきらめかせ、道なき道を疾駆する。
手綱を握るのは、まだ少女の面影を残した女だ。背には弓矢を負っている。纏った衣は濫(らん)国のものだが、女の横顔は草原に生きる民の血を色濃く感じさせる。大きな目に通った鼻筋、厚い唇、そして風になびく豊かな黒髪。
女は右手で手綱を操る。その左腕は、懐から顔を出した赤子をひしと抱いている。赤子は、揺れる馬上にあって健やかな寝息を立てている。
女は一心に北へと馬を駆けさせる。
目の前に広がるのは草の海ばかりで、眼前には地平線以外に何もない。
それでも女は駆けていく。目に見えぬ、しかし女にははっきりと見えている場所を目指し、馬を走らせる。
どうか、と女は祈る。
その先に続く言葉を知らぬまま、それでも女は祈る。
どうか、どうか、と。
「女は嫁げば夫の家のものになる。誠心誠意、夫君にお仕えしなさい」
出立の日に母はそう言った。
母アルマの手はシリンの両肩を強くつかみ、指が肌に食い込むほどだった。
「わかっています、母様」
シリンが母の言葉にうなずくと、幾重にも巻かれた首飾りがしゃらしゃらと音を立てた。身に着けた衣が重く体にのしかかる。
母や祖母、そしてシリン自身が何年もかけて準備してきた衣裳や装身具をすべてまとっているせいだ。十を超えた歳からひと針ひと針刺繍をほどこし、木片を彫り、石を繋ぎ、この日のために備えてきた。アルタナの娘にとって嫁入りは生涯最大の催事であり、その人生を決定づけるものだ。嫁ぐまでの日々はすべてその日のため、つまり今日のためにある。
アルマはシリンの頭のてっぺんからつま先までじっくりと眺めた。まるで自分の作品の出来をたしかめるように。
- 氏家仮名子
- 千葉県在住。『双蛇に嫁す』で2022年ノベル大賞〈カズレーザー賞〉を受賞。猫と怖い話、食べることが好き。
氏家仮名子デビュー記念
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- 双蛇に嫁す濫国後宮華燭抄
- 2023年2月16日発売
文庫判/336ページ
価格:814円(税込)
ISBN:978-4-08-680492-9