魔法使いのお留守番 第四話
四 魔法使いの弟子

「ヒマワリ、残さず食べろ」
夕食に出された豚肉の脂身をちまちまとナイフで切っては端に寄せていたヒマワリは、クロに指摘され顔をしかめた。
「脂身嫌い」
「何~? そこが美味いのに」
「気持ち悪いよ。ぶにぶにしてて」
給仕をしていたアオが、少し困ったように考え込んだ。
「うーん、やはりだめですか。先日も牛肉の脂身を残していましたし、鶏肉の皮も食べられませんでしたからねぇ。今度からヒマワリさんの分は、すべて赤身のお肉を用意しましょう」
「甘やかしすぎだろ」
「シロガネも脂身は苦手でしたからね」
「そうだったか?」
「ええ。最初に出会った頃、食事を用意する時にシロガネに言われたんですよ。脂身は絶対食べないから出すなと。だから、シロガネのお肉だけはいつも脂身のないものを用意してたんです。ヒマワリさんの分も同じようにしましょう。大した手間ではないですよ」
シロガネと同じだ、というのはなんだか癪ではあったが、ヒマワリはアオの提案をありがたく思った。この脂の塊を口に入れることは、何をどうしても躊躇われる。
「それとな、お前は一口あたりを大きく切り過ぎなんだよ。だからそうやって口の周りがべっとべとになる。もっと小さく切って口に運べ」
肉の切り方まで口出ししてくるクロに顔をしかめながら、ヒマワリは口の周りをナプキンで拭った。確かに、べとべとである。
「こうやって、食べるぶんだけ一口ずつ切る。まとめて切ると旨味のある肉汁が出ていくし、冷めやすくなるからな。ナイフの持ち方、この間も教えただろうが。こうだ、こう!」
以前から感じていたが、クロはやたらとテーブルマナーにうるさい。
言うだけあって、クロの食べ方はとても綺麗だと思う。肉を切るナイフの角度、スープをすくい口へ運ぶ流れる仕草、計算されたようなワイングラスの傾け具合……食べ終わった後の器まで、すっきり美しい。
「今更ですが、クロさんはどこかでテーブルマナーを習ったんですか? 詳しいですし、所作も慣れていますよね」
感心してアオが尋ねる。
「昔、人間の貴族の家で暮らしてたからな。一通り仕込まれた」
クロが自分の昔話をするのは珍しい。ヒマワリは詳しく聞きたいと思い、身を乗り出した。
その時、アオが「あ」と声を上げた。
「クロさん、来客です」
「ちっ、食事中に来るんじゃねーよ」
不愉快そうに吐き捨てて、クロは眉を寄せた。
「もう夜だぞ。訪問マナーもなってねぇな」
クロは最後の肉を優雅な手つきで口に運ぶと、ワインも一気に飲みほした。そしてあくまで優々たる所作でナプキンを手に取り口を拭うと、億劫そうに席を立つ。
出て行くクロを目で追いかけながら、ヒマワリも慌てて食事を平らげ、「ごちそうさま!」と椅子から飛び降りた。
急いで後を追うと、夜の砂浜を見下ろすいつもの崖の上に、クロのほっそりとした後ろ姿が浮かんでいた。
ヒマワリは気づかれないよう、林の陰から様子を窺う。島にやってくる人間をこっそり観察するのが、ヒマワリの楽しみのひとつなのだ。
今日は一体、どんな来客だろう。
「あなたがシロガネ様ですか!?」
「魔法使いは留守にしております」
クロはいつも通り、冷たい口調で返した。
「お帰りください」
「ま、待ってください!」
クロは引き留める声を無視して、さっさと戻ろうと身を翻す。木の陰から身を乗り出していたヒマワリに気づくと、顔をしかめた。
「おい、中入ってろ」
「ちょっと見るだけ、ちょっとだけ!」
小声でそう言って、ヒマワリは自分の姿が相手から見えないよう屈みこみながら、そっと崖の下を覗き込んだ。
月明かりに照らされて砂浜にぽつんと立っているのは、十代半ばの黒髪の少年だ。大きな眼鏡をかけた彼は、必死になって叫んでいた。
「僕、モチヅキといいます! 大魔法使いシロガネ様の、弟子になりたくてやってまいりました!」
クロもヒマワリも、一瞬ぽかんとした。
「……は?」
「お願いです、どうかシロガネ様に会わせてください!」
苛立ったように、クロが再び返答する。
「ですから、留守にしております」
「お戻りはいつですか!? 僕、待ちます! いつまででも、待ちますから!」
モチヅキ少年は必死な様子で、崖を上がる階段に足をかけた。
この階段には魔法がかけられている。上ろうと思ってもすぐに砂となって崩れ落ちてしまう、侵入者除けの魔法である。
だから彼もまた、その階段を上ることはできない――はずだった。
しかし、クロとヒマワリは目を疑った。
少年はそのまま、勢いよく階段を駆け上がってきたのである。
「はぁ……!?」
ぎょっとしてクロが叫んだ。
「なんで魔法が発動しないんだよ!?」
ヒマワリはこの島へ来てからすぐ、アオに言われてある水盤に湛えられた水に自分の血を一滴浸した。その水盤は島を守る魔法の源になっていて、水が認識した血を持つ者だけは、この魔法の対象外となるという。現在、アオ、クロ、ヒマワリだけはこの階段を安全に上り下りできるが、それ以外の者はすべて、排除の対象として魔法が発動するようになっているのだ。
ちなみに、アオに血は流れていないはずなので疑問に思って尋ねてみると、
「シロガネがこの魔法を島全体にかける時、俺は最初から対象から外れるようにしてくれました。この水盤は、後から誰かを追加したい時のために用意されたんです」
だそうである。
ところがこの少年はその魔法を搔いくぐって、何の気負いもなく階段を上ってきていた。自分の身体よりも大きな荷物を背負っているので、ふうふうと息が上がっている。
この崖にはそれ以外にも、幻覚を見せて惑わせる魔法もかかっているはずだった。しかしこれもまたモチヅキはまったく意に介する様子も見せず、ついに崖の上まで到達してしまった。
「はぁ、はぁ……結構、急な、階段、ですね……げほげほっ」
息を切らし汗を拭いながら、背負っていた荷物をどさりと下ろす。
「お願いです。シロガネ様が戻られるまで、ここで待たせていただけませんか。そのへんで野宿でもなんでもします。……いや、でも可能でしたら納屋でもなんでも結構ですので、雨風のしのげる場所を貸していただけると、そのー、嬉しかったり……」
えへへ、と遠慮がちに笑う。
しかしクロは、容赦なく動いた。
ぱっとモチヅキの腕を取ると、一気に捻り上げる。彼が悲鳴を上げた瞬間、その首筋に手刀を喰らわせた。
気を失って崩れ落ちた少年を見下ろし、クロは表情を曇らせた。
「くそっ、厄介なやつが来やがった」
「弟子入り志願、ですかぁ」
意識を失った少年を興味深そうに見下ろし、アオが言った。
城まで運び込まれた少年は、こてんと床に横たわっている。
「気をつけろよ。シロガネのかけた魔法、全部突破してきたやつだ。侮れねぇ」
「ということは、この子も魔法使いなんですね」
クロが少年の荷物を開けて探り始めたので、ヒマワリも横から覗き込む。
「おかしなものは持ってなさそうだな……着替え、食料、本……ていうかほとんど本じゃねーか。どうりでくそ重いと思った。全部魔法書だな」
ヒマワリは興味津々に、詰め込まれていた魔法書のひとつを手に取った。この城では見たことのない、真新しい装丁である。シロガネが本を収集していたのは彼が生きていた十年以上前のことだから、この島には最近の魔法書がないのだ。
「ねぇ、この人どうするの?」
「弟子入り希望ってのも、本当かどうか怪しいもんだぜ」
「海に放り込みますか?」
アオが言うと、クロは首を横に振る。
「島の保護魔法が効かない以上、戻ってきてまた勝手に島に入ってくるだろ。とりあえず、地下牢に入れるか」
「僕、この人と遊びたい!」
ヒマワリは魔法使いに会ったことがない。これまで本でしか知ることのできなかった魔法の数々を実際に見てみたいし、聞きたいことだってたくさんある。
しかしクロは「だめだ」と少年を荷物のようにぞんざいに抱え上げた。
「こいつには絶対近づくなよ」
「なんで?」
「魔法使いが相手なんだ。何されるかわからない。アオ、牢の鍵よこせ」
「でも、大人じゃないのに」
アオが鍵を持ってきて、クロに渡した。
「魔法使いは子どもの頃から魔法を使えるし、教育を受けてる。こいつは十四、五ってとこだから、そこそこ一人前になる頃だろ」
「そうなの? じゃあ僕も、もっと魔法を覚えていい?」
クロはしまった、というように顔をしかめる。
「……だめ」
「なんで?」
「とにかく、牢には近づくなよ!」
そうして少年は、薄暗い地下牢の住人となったのだった。
地下牢で目を覚ましたモチヅキは、その状況を恐れるでも困惑するでもなく、牢とはいえ雨風のしのげる場所でシロガネを待つことができると喜んだ。
どうやってこの島へやってきたのか尋ねるアオとクロにも、けろっとした様子で答える。
「海賊船に乗せてもらいました」
「海賊船?」
「僕、お金なくて。船を手配できなかったので、なんでもしますって約束で海賊さんに送ってもらったんです。掃除に料理にマストの補修に……忙しかったですけど、楽しい船旅でしたよ。ただ困ったことに、彼らは絶対にこの島には近づきたくないって言うんです。海賊の間では、ここには絶対上陸するなっていう不文律があるそうで。昔、何かあったみたいなんですけど、みんな口を噤んでしまったので実際はよくわかりません。でもそこをなんとか頼み込んで、僕だけさくっと下ろしてもらって、彼らはさっさと去っていきました」
つまり、帰りの船はないということだ。
「家はどこだ? 親は?」
「僕、帰りませんから!」
「しかしそれでは、ずっとこの牢にいることになりますよ?」
「構いません! ここで、シロガネ様を待たせてください!」
アオとクロは、困ったように顔を見合わせた。
船がないなら、古井戸の魔法で彼を送り返すしかない。しかしこの魔法は、行き先が明確でなければ発動しないのだ。
しかしモチヅキは頑なに、家の場所を言うことを拒んだ。
「適当な場所に放り出せばいい。できるだけ遠い、北の果てにでも連れていけば戻ってこれないだろ」
対応を話し合いながらクロは投げやりに言ったが、アオは反対した。
「ですが、お金もないと言っていましたし。あの年齢では、まだ親御さんも心配しているでしょう。おうちの近くまで送って差し上げるべきでは」
ヒマワリのために育児書を読み込んでいるアオは、最近何事もすっかり親目線であった。
モチヅキは、シロガネに会うまで帰らないの一点張りだった。
アオが食事を運んでいくと、その度に、
「シロガネ様は戻られましたか?」
と期待に満ちた目で尋ねてくる。
ヒマワリは度々、自分も一緒に牢へ行きたいとせがんだが、アオもクロも決してそれを許さなかった。
しかし、だめだと言われると、やりたくなるのが人の性である。
モチヅキが島へやってきて三日目、ヒマワリは二人の目を盗んでこっそりと地下牢へと下りていった。この間までまったくのがらんどうだった暗い鉄格子の向こうに、膝を抱えてモチヅキが座り込んでいるのが見える。
ヒマワリに気がつくと、モチヅキはぱっと顔を上げて、親し気に破顔した。
「やぁ、崖のところで会ったね」
「……うん」
少し距離を取りながら、ヒマワリは答えた。
近づいてはいけない、と言われているので、一応躊躇いはある。
しかし、それ以上に好奇心が勝った。
「君、ここに住んでるの?」
「うん、そう」
「僕はモチヅキ。君の名前は?」
「ヒマワリ」
「ヒマワリ! ああ、その目にぴったりだねぇ!」
にこにことしているモチヅキにいくらか警戒を解き、ヒマワリはもう少しだけ近づいた。
「僕、本当はここに来ちゃだめって言われてるんだ」
「そうなの? ヒマワリは、シロガネ先生の息子?」
しれっと先生呼びが始まっている。
「違うよ」
「じゃあもしかして、シロガネ先生の弟子?」
「ううん。シロガネには、弟子いないと思う」
「本当!? じゃあ僕が一番弟子ってことだな、ふふふ!」
嬉しそうだ。もう弟子になるつもり満々である。
ヒマワリは少しむきになって言った。
「シロガネはね、もうずっと帰ってこないんだよ。今まで会いに来た人たちだって、みんな会えずに帰っていったんだから。だからね、待ってても無駄だよ。もう……帰ってこないのかも」
「いつまでだって待つさ! 僕は諦めないよ。僕にはもう、シロガネ先生しかいないんだ」
「でも、アオもクロも、モチヅキを帰す方法を相談してるよ。船はないから、魔法の道を通って帰そうって言ってる。おうちじゃなくても、どこか適当なところに連れていこうかって……」
すると、モチヅキは奇妙な表情を浮かべた。
「それは無理だよ」
「どうして?」
「だって僕……魔法の道は通れないんだ」
「……?」
意味が分からず、ヒマワリは首を傾げた。
モチヅキは、少し躊躇いがちに説明する。
「僕ね、魔法を全部、無効化しちゃう体質なんだよ」
「魔法を、無効化?」
「うん。つまり、どんな魔法も僕にはかからない――作用しないんだよ。全部素通りしていくっていうか、なんの影響を受けないんだ」
彼が崖にかけられた魔法をものともせず、あっさりと階段を上がってきた姿を思い出す。
「そんな魔法があるの?」
「違うよ。魔法じゃなくて、体質っていうか……その……僕……」
言いづらそうに、モチヅキは視線を彷徨わせた。
「魔法が、使えないんだ」
ヒマワリはきょとんとした。
「? 魔法使いなんじゃないの?」
「僕は魔法使いの一族の生まれだよ。それは間違いない。父上も母上も魔法使いだ。……でも僕だけ、魔法が使えない。生まれた時から一度も……」
「魔法が使えないのに、魔法使いの弟子になるの?」
「大魔法使いシロガネに教われば、こんな僕でも魔法が使えるようになるかもしれないじゃないか!」
ヒマワリは目をぱちくりとさせた。
そして、なーんだ、と肩の力を抜く。
魔法使いではないのなら、ヒマワリと同じ子どもだ。そこまで警戒する必要もない。
安心して、鉄格子のすぐ傍まで近づいた。
「魔法使いの子なのに魔法を使えないって、よくあること?」
モチヅキは情けなさそうに肩を落とし、普通はないよ、と俯く。
「僕だけなんだ、こんななのは。だから家族からも見放されてるんだ。出来損ないの、一族の面汚しって……はぁ。兄も妹もちゃんと魔法が使えるのに、なんで僕だけ……」
深いため息が、暗い石の壁にこだました。
「なんとか魔法が使えるようにならないか、これまでも色んな魔法使いに弟子入りして修業したんだよ。でも、全然だめ。両親ももうお手上げ状態。それで、シロガネ先生ならもしかしたらって思ったんだ。なんといっても、不老不死の秘術を編み出した天才だもの。僕が扉を開くことができない理由も、先生ならわかるんじゃないかと……」
「扉? どこの扉?」
「魔力の入り口のことだよ」
「入り口?」
モチヅキは少し胸を張って話し始めた。
「魔力というものは、魔法使いが生み出すものじゃないんだ。魔法使いたちが『扉』と呼んでいる入り口の、その向こうにある世界から流れ込んでくるのさ。魔法使いだけが、その扉を開いて二つの世界を繋ぐことができる。すなわち、扉を開くことのできる者こそが、魔法を使える者――魔法使いなんだよ」
誇らしげに説明してから、気恥ずかしそうに頭を掻く。
「……といっても、僕もその理論しか知らないんだけど。扉は目に見えるものではなくて、魔法使いなら感じとることができるんだって。そしてその扉を開くと、魔力が己に流れ込んでくる。受け取った魔力を、様々な術式をもってして操り使役するのが、魔法使いだ」
(扉……)
これまでヒマワリは、なんとなくこうだろう、という感覚のみで魔法を使っていた。なんの知識も経験もなく、誰かが魔法を使うところすら見たことのないヒマワリには、その感覚を言語化することはできなかった。
しかし今のモチヅキの説明は、魔法を使おうとする時の感覚を的確に言い表している気がした。
(そうだ。魔法を使おうと思うと、どこからか力を手繰り寄せるような……溢れてきた何かで身体中が満たされていく気がする)
「扉の向こうから魔力をどれだけ受け取ることができるのか、そしてそれをどう操るのか――そこに魔法使いの差が表れるんだよ。つまり、それが個性、あるいはその人の能力なんだ。大量の魔力を自らに降ろすことのできる魔法使いは巨大な力を得るけど、その力に振り回されてしまっては身を亡ぼす。だから魔法使いは、魔力を適正に操ることのできる術を幼い頃から学ぶのさ。逆に、扉を開けてもわずかな魔力しか受け取れない魔法使いもいる。個人によって、魔力の許容量が異なるんだ。そういう魔法使いは、より技術に走る。少ない魔力をいかに有効に使うか、そこが腕の見せ所になるってわけ。四大魔法使いの多くは、そもそもこの魔力容量が大きい方たちだ。シロガネ先生もそのタイプだって聞いてる」
「四大魔法使い――って何?」
モチヅキは目を丸くする。
「知らないの? 大陸の東西南北を守る、魔法使いの最高位にある人たちだよ。一般の魔法使いとはレベルが桁違いの、すごい魔法使いなんだ!」
「魔法使いって、そんなにたくさんいるんだ」
「魔法使いは大陸中にいるよ。それを統率しているのが、魔法の塔だ。四大魔法使いは、その魔法の塔で行われる評議会で決定される」
「じゃあシロガネも、その四大魔法使い?」
「いや。シロガネ先生は若い頃から飛びぬけて優秀で、当然四大魔法使いにって打診もあったんだけど、それをきっぱり断ったそうだよ。かっこいいよなぁ、孤高の天才魔法使い!」
「ふぅん……」
アオやクロの話、それにこの島を訪ねてくる人たちの口ぶりから、シロガネはなんだかすごい魔法使いらしいと思っていたが、魔法使いの世界では実ははみ出し者ということなのだろうか。
「えーと、じゃあモチヅキは、その扉から魔力を受け取れないから、魔法が使えないってことなんだ」
「……僕はそれ以前の問題なんだよ。まず、扉を開くことができない。魔力を受け取るという大前提まで、辿り着けてないんだ。そんなふうに魔法が使えない体質が反転的に作用しているのか、一方で僕には、どんな魔法も効かない。誰かに魔法をかけられても、僕は何も感じないし、その魔法は発動しない――無効化してしまう。魔法自体が消えるわけじゃないんだけど、とにかく僕に対しては有効に発動しない。だから移動魔法も、僕は利用できないよ。僕を魔法の入り口に放り込んでも無駄なんだ。ちなみに僕の家では窓が移動魔法の入口になっていて、その先に魔法の道が敷かれてるけど、何度窓から飛び出したって僕の前に現れるのはうちの庭だけだったよ。その度に、二階から落ちて骨折ったっけ……。その怪我だって、治癒魔法じゃ治らないっていうオチさ」
疲れたような、遠い目をしている。
「つまり僕は魔法使いじゃないけど、ただの人間ですらないんだよ。だって普通の人間は魔法の力を享受できるんだから。魔法の道だって使えるし、怪我だって治してもらえる。でも僕は、とにかく魔法が起こすすべての奇跡を何一つ体感できない。こんなのってあんまりだよ!」
頭を抱え、大きくため息をつく。
「だけど、僕だって魔法使いの血を引いてるんだ。きっといつか、力が覚醒するはずだ……! でもどうしたらいいかわからない。わからないから、シロガネ先生に助けてほしいんだ。そう思って、シロガネ先生のところへ行きたいって両親にお願いしたけど、父上も母上も、もう僕のこと完全に諦めててさ。話も聞いてもらえなかったよ。だから僕、何も言わずに出てきたんだ。きっと清々してると思うよ、僕がいなくなって……。わかっただろ? 僕はもう後がないんだ。家には帰れないし、どこにも行くところはない。シロガネ先生だけが頼りなんだ!」
モチヅキの話を聞きながら、ヒマワリはあることを思い出していた。
シロガネの研究室で読んだ研究ノート。その中に、『非魔法使い』と称された記述があった。
読んだ時はよくわからなかったが、あれはモチヅキのような「魔法が使えない魔法使い」について言及していたのではないだろうか。あまり興味がなくて斜め読みしただけだったが、そこにはシロガネなりの様々な考察が書かれていたはずだ。
もしかしたら、シロガネであれば本当に、モチヅキの悩みを解決できるのかもしれない。
(でも、シロガネはもういない)
ミライも言っていた。
シロガネは、確かに死んだのだ。
「僕は魔法が使えない代わりに、勉強だけは嫌になるほどしたんだ。魔法の歴史、理論、術式体系、有名な魔法使いの自叙伝……あらゆる魔法書を読み漁ったよ。知識だけでいったら、僕ほど魔法に詳しく造詣の深い人間はそういないって胸を張れる。あとは肝心の魔力さえ手に入れば……! そうしたら僕だって、四大魔法使いも夢じゃないかもしれない」
ぎりりと鉄格子を握りしめて、モチヅキは懇願した。
「お願いだよ、シロガネ先生に会わせて! 先生は僕に残された、最後の希望なんだ!」
ヒマワリがこの話をアオとクロにすると、二人は驚いた様子で考え込んだ。
「魔法を使えない魔法使い、ですか。……いえ、魔法が使えないなら魔法使いとは呼べませんが。そういった方がいるんですね。クロさん、聞いたことありますか?」
「魔法使いの一族はその血で魔力を呼ぶとは聞くが、それができないというなら、本当は親と血がつながってないんじゃないか? 養子か、あるいは取り換え子……。いや、その前にヒマワリ! 勝手に牢に行くなって言っただろうが!」
「でも、モチヅキは魔法が使えないんだよ。だから危なくないよ!」
「勝ち誇ったように言うな」
「そうですよ、ヒマワリさん。彼が本当に魔法が使えないのかは、まだわかりませんからね。油断させるために嘘をついているのかも」
「それを確かめるためにも、井戸に放り込んでみるか。魔法の無効化ってのが本当かどうか、はっきりするだろう」
こうしてモチヅキは、二人に牢から引っ張り出されると城の裏にある古井戸へと連れていかれた。
念のため、両手は縄で縛られている。
「短距離で試す。目的地はあの丘の上だ」
クロが指さす先にあるなだらかな丘に目を向けてから、モチヅキは恐る恐るというふうに井戸を覗き込んだ。
「ちょ、え、待ってください。これが魔法の道の入口ですか?」
「そう」
「あのー、この井戸、どのくらいの深さがあるんでしょうか」
「底まで、約四十メートルってとこかな」
「……下に、水は?」
「とっくの昔に枯れてる」
モチヅキは泣き出しそうな顔で、ぶんぶんと首を横に振った。
「だめです、無理です! 言ったでしょう、僕は魔法の道を使えないんです! ここへ入ったら、ただ穴に落ちるだけなんです! 底に叩きつけられて死んじゃいます!」
「それを試してみようって話だ。さぁ入れ。――行き先、終島の丘の上」
目的地を設定して井戸に落とそうとするクロに対し、モチヅキは必死の形相で抵抗する。
「助けてー! 人殺しー!」
「黙って入れ!」
「クロさん、もしものことを考えて縄梯子で下ろしましょうか。以前、シロガネがこの井戸の探検に行った時のものがありますから」
そう言ってアオが、古い縄梯子を物置から引っ張り出してきた。
それでもモチヅキは、恐怖に顔を引きつらせている。
「ぼぼぼ、僕、暗いとこと狭いとこが苦手で……」
「ここまで配慮してやったんだ。さっさと下りろ!」
「せ、せ、せめて、この縄解いてくださいよ! うまく手を動かせません!」
ヒマワリは密かに感心した。モチヅキはこんな状況でも、自分の意志や要求をはっきり表明するし、相手に対して決して臆することがない。
仕方なく、クロは手首の縄を解いてやった。
「俺も一緒に行くからな。逃げようなんて思うんじゃねーぞ」
「わかってますよ……」
最初にモチヅキが、続いてクロが、梯子をそろそろと下りていく。井戸は奥へ進むにつれ植物が生い茂り鬱蒼としていて、闇に包まれ底は見えない。二人の姿は暗がりの中へと消えていく。
見守っていたアオとヒマワリは、やがて井戸の中にふわりと光が溢れるのを見た。
魔法の道が開いたのだ。
丘を望むと、誰もいなかったその場所にぱっと人影が現れた。
ただし、一人だけ。
丘の上に降り立ったクロは、きょろきょろとあたりを探すように見回している。
やがて、井戸の中からモチヅキの泣き声が、幾重にも反響してこだました。
「ももももう、限界ですぅ……! 暗いよぉお……怖いよぉぉ……ここから出してぇぇ……助けておばあちゃ――ん……!」
嫌がるモチヅキを宥めたり脅したりしながら、同じ試みをさらに二度繰り返したが、結果は同じだった。モチヅキは一切移動することができず、彼が魔法を無効化するというのはどうやら本当らしいと、三人とも信じるしかなかった。
魔法で送り返すこともできないとなれば、大陸へ渡るには船を確保するしかない。結局、船の都合がつくまでの間、モチヅキはしばらく島に滞在することになった。青い顔でひぃひぃ言いつつ井戸から這い出してきたモチヅキだったが、結果的に望みの叶ったことを知ると途端に目を輝かせて喜んだ。
客間の一室があてがわれたのは、彼に対して一定の警戒が解かれた結果だ。魔法が使えないという彼の言葉が嘘である可能性はまだあったが、それについては証明のしようもないし、アオもクロも注意を払いつつ様子見することにしたらしい。
ヒマワリは喜び勇んで、毎日のようにモチヅキのもとを訪ねた。
牢で聞いた魔法についての講釈は、ヒマワリの知識欲をひどく刺激していた。これまで手探りのような状態で魔法と接していたヒマワリにとって、彼のもたらす情報は魅惑的だ。今まで無意識に行っていた呼吸の方法をようやく知ったような、乾いていた土に水が沁みこんでいくような――そもそも土が乾いていることにすら気づいていなかった、そんな気分だった。この水がさらに行き届いて満たされれば、今までとは違う景色が見られる、そんな気がしていた。
こうしてモチヅキは、ヒマワリに請われ魔法についての講義を行うようになった。
モチヅキ自身は魔法を使えないので、その歴史や理論を説くだけだが、それまでヒマワリが書物からしか得られなかった知識について細やかに補足しつつ、最近の魔法の流行や魔法界の情勢なども交えて教えてくれる。
最初は、魔法について教わるということに少し渋い顔をしていたアオとクロも、あくまで座学であり実践的な内容ではなく、またその講義の間はモチヅキが出歩いたりもせずおとなしく部屋にいることになるので、最終的には許可してくれた。
ヒマワリが魔法使いの血を引いていると知ると、モチヅキはどこの家の出身なのかと尋ねた。
「家?」
「魔法使いは魔法の塔で登録管理されているし、魔法使いの系譜のどこにあたる家の出身なのかによって区分されてるんだよ」
「そうなの?」
「本当に何も知らないんだな。ねぇ、ヒマワリって、アオさんかクロさんの子どもなの?」
ヒマワリはふるふると首を横に振る。
「違うよ」
「じゃあ、ご両親は?」
「知らない」
「……孤児ってこと?」
「僕、どこで生まれて、どこで暮らしてたのかわからないんだ。舟でこの島に流れ着くより前のこと、覚えてない」
さらっと重い事情を聞かされたモチヅキは、少し焦ったように頭を掻いた。
「それじゃあ、どこかで君を探している家族がいるかもしれないじゃないか」
「いる、かなぁ……」
「魔法の塔に問い合わせてみれば、わかるかもしれないよ」
「魔法の塔?」
「そう、さっきも言ったけど、魔法の塔には大陸中の魔法使いが登録されているんだ。生まれた時に、どの家の生まれなのか、名前と性別、身体的特徴まで網羅してる。だから、それを見れば実家がどこかわかるんじゃないかな」
ヒマワリは驚いた。
これまでは魔法使いといえば知っているのはシロガネだけで、魔法使いというのはこうした人里離れた場所で悠々自適に暮らしている人たちのことだと思っていたのだ。それが、そんなふうに細かに管理されているものなのか。
「そもそも、この世界における最初の魔法使いを知ってる?」
「歴史の本で読んだよ。『魔女』って人でしょ」
「そう、『魔女』と呼ばれた、僕らの祖先にあたる女性だ。この世界の歴史は、魔女以前と魔女以後に大別される」
「確か、魔女が生まれた年から、今使われているマナ暦が始まってるんだよね」
「そう。それ以前を古代と呼んでいて、今ではおとぎ話みたいな超文明を持った国があったとされてる。本当かどうかわからないけどね。その古代世界において起きた最大の戦争、いわゆる世界大戦が起きて、そのさなかに現れたのが魔女だ。魔法をこの世にもたらした最初の魔法使いさ」
説明しながら、簡単な年表を書いてみせてくれる。
「魔女が魔法をもって戦争を終結させ、その後、魔法使いによる国が興った。この魔法王国は、世界を魔女以前とはまったく別のものに塗り替えた。文化も言語も」
「言語? 言葉も?」
「そう。ヒマワリ、小説は読む? ああいうのに出てくる登場人物って、結構耳慣れない名前のことがあるだろう?」
ヒマワリは、アオがハマっている小説を思い出した。
『薔薇騎士物語』も『アヴァロンの果ては青い』も、彼が嬉しそうに話す主人公やヒロインの名前は、確かに珍しいものだった。
「どこか遠い国の物語なんじゃないの?」
「あれは、魔女以前の世界で使われていた名前だよ。魔法王国が世界を支配した三百年の間に、人名体系まですっかり変わってしまったんだ。これももともとは、魔法使いの真の名を隠すためだったらしいよ」
「真の名?」
「名前を知るということは、その相手を支配する方法を得ることになると考えられていたんだ。だから昔の魔法使いは、本当の名前とは別の呼び名を持っていた。その頃世の中に存在した名前とは、まったく異なる名を日常的に使うようになった。やがてそれが、一般にも広まっていったらしい」
「ふぅん。じゃあモチヅキも、別の名前があるの?」
「魔法使いの名前の秘匿が行われていたのは、魔法王国時代までだよ。国が滅んで以後、魔法使いたちは名前を隠すことをやめたんだ」
ヒマワリは首を傾げた。
「ねぇ、でも確か、魔法使いは王様にはなれないって、本に書いてあったよ。魔法王国なんて本当にあったの?」
「その掟が出来たのは、もっと後の時代さ。魔法使いの魔法があまりに圧倒的な力を持ったことで、残念ながら魔法使いたちは人間を支配して暴虐の限りを尽くすようになっていったんだ。虐げられた人間と竜の同盟軍による反乱が起きて、やがて魔法王国は滅びた。この同盟軍には、心ある魔法使い四人も加わっていたんだ。彼らが現在の四大魔法使いの祖、四賢人だ。四賢人は魔法使いが二度と君主とならない、国を持たないことを誓った。さらに、自分たちに害意がないことを示すために、名前を秘すことをやめたんだ。そうして四大魔法使いは、今も大陸の四方で魔法使いたちを統率している。――それで話が戻るんだけど、長い歴史の中で、魔法使いの一族にも今じゃ序列があるんだよ。世代が進んでいくつもの家に分かれていく中で、いわゆる名家とされる家と、そうじゃない家が出てきた。魔法の塔の記録を見れば、そういうこともわかるんだ。ちなみに僕の家は一応、その名家ってやつのひとつ。だから余計に、僕みたいな出来損ないが生まれたことが、大問題なんだよ。魔法使いのコミュニティで重要なのは、いかに優秀な魔法使いを多く輩出するかだ。僕みたいな存在は、恥もいいところでね……」
思い出して憂鬱そうに、モチヅキはため息をついた。
「一人だけ……僕のおばあちゃんだけは違った。こんな僕にも、すごく優しくしてくれた。おばあちゃんは魔力容量も少ないしあまり優秀な魔法使いとはいえなかったみたいで、一族の中では立場が弱かったんだ。だから僕の気持ちがわかったんだよ。シロガネ先生について教えてくれたのも、おばあちゃんなんだ。あの人ならお前を救ってくれるかもしれない、って……。でも、三か月前に死んじゃった」
モチヅキの瞳が、少し潤んでいる。
「それでようやく決意したんだ。シロガネ先生の弟子になろうって」
家には帰れないし、どこにも行くところはない、とモチヅキは以前語っていた。
それは、ヒマワリも同じだった。
ここ以外、行く場所などないのだ。
「じゃあ、ずっとここにいればいいよ」
ヒマワリは言った。
「ずっと、一緒に暮らそうよ」
モチヅキは、少し恥ずかしそうに笑った。
「そうできたら、いいなぁ」
モチヅキはこの教師としての役割を、案外気に入ったようであった。何より、これまで蓄えた知識を誰かに披露できるのが嬉しいらしい。
時折課題を出して、ヒマワリの習得具合を確認することもあった。ヒマワリが正解すると、その度に持参したチョコレートを一粒くれる。
「おばあちゃんがね、よくこうして、僕が正解するとご褒美のチョコをくれたんだよ」
懐かしそうに目を細める。そのチョコレートの美味しさといったら身体が蕩けてしまいそうなほどで、ヒマワリは一層張り切って課題に取り組むようになった。
さらに、モチヅキがいくつかの魔法書を貸してくれたので、ヒマワリは夢中になって読みふけるようになった。夕食の席にまで持ち込んで読みながら食べようとするヒマワリを、クロが叱りつけることもしばしばだ。
また、モチヅキは一人家政に勤しむアオを積極的に手伝った。
「居候ですから、これくらいさせてください」
と、皿洗いや掃除など、なんでも率先してこなす。
その際、祖母から教わったという『茶渋を綺麗に取る方法』とか、『室内干しの洗濯物を早く乾かす方法』などの知恵袋をアオに伝授しては、しきりに感激されていた。
目を輝かせたアオ曰く、
「あれはもう、魔法です」
らしい。
そんなある日の、講義の休憩時間。ヒマワリはシロガネの直筆ノートを取り出して、モチヅキに見せた。
「あのね、シロガネが昔、モチヅキみたいな人のこと研究していたみたいなんだ」
モチヅキは飛び上がった。
座っていた椅子が、音を立てて倒れる。
そのまま一旦後退りして、今度はふらふらと手を伸ばして近づいてくる。
「大丈夫?」
「こここ、これが、シロガネ先生のノート……!? 本物!?」
「しーっ、内緒だよ。本当は研究室に勝手に入っちゃいけないって言われてるの。だから、これ持ち出したのも秘密なんだよ! 絶対、アオやクロに言わないでね!」
「も、もちろん!」
頬を紅潮させてノートを覗き込む。
そこには、魔法使いの一族に生まれながら魔法を操ることのできない者についての、詳細な研究記録があった。
「ええと……『こうした非魔法使いは、この千年の間に二名存在を確認されている。一人は女性、両親とも魔法使いであり、もう一人は男性で片親だけが魔法使いであった。このことから、非魔法使いは生まれや性別の影響を受けるわけではないと思われる』」
モチヅキはぱっとノートから顔を上げると、目を輝かせた。
「――僕みたいな人が、ほかにもいたんだ!」
さらに食い入るように、ノートの続きを読み始めた。
『彼らは魔法容量がないというよりは、そもそも魔法の扉を開くことができないようである。また注目すべきは、魔法が使えない一方で、魔法の影響を一切受けず相殺してしまうという特性も持っている。
五百年前に存在した非魔法使いの少女ハルカは、どんな魔法をも打ち消したが、最後は竜の呪いを受けて死んだとされる。このことから、彼らの持つ特性はあくまで対象を魔法に限定されるらしく、魔法とは別種の力に対しては、普通の人間と同じ反応を示すものと思われる。
三百年前に生きた非魔法使いの青年キツツキは、時の四大魔法使いの一人であった北の魔法使いの魔法による攻撃にびくともせず、衆目の前で彼を直接殴り倒してしまった。四大魔法使いの権威を大いに傷つけるこの出来事は魔法界において不都合な事実であり、正式な記録には残されていない。そしてこれ以後、魔法界は非魔法使いの存在を認めず彼らを隔離した。私が確認できた二名以外にも、隠された者たちがいた可能性がある』
そこまで読んで、モチヅキは黙り込んだ。
「どうしたの?」
「僕、数年前から病弱で寝込んでいることになってるんだ。だから家からも、ほとんど出してもらえなくて。……そのうち、死んだことになるんだと思う」
ヒマワリは驚いた。
「死ぬ?」
「魔法の塔に登録された僕の名前を、抹消するつもりなんだよ。魔法使いじゃないんだもの、しょうがないんだけど。両親は僕が魔法を使えないってこと、ほかの家に知られたくないんだ。だから死んだことにするのさ。その後はきっと、どこかの田舎にでも隠されて……僕以外にも、そういうふうに記録から消えた人たちが、きっといたんだ」
シロガネのノートには、その後彼が大陸中を回って非魔法使いを探した記録があった。死亡届などで登録抹消された者、病弱でほとんど活動が記載されていない者のリストが挟まっており、そこに記載された魔法使いを訪ね歩いたらしい。
そしてそれらの名前すべてに、取り消し線が引かれていた。
最後に、こう書かれている。
『現在、非魔法使いの存在は確認できていない。その血を分析すれば何らかの変異の痕跡が見られるかもしれない。彼らはいつかまた、生まれることがあるはずである。その兆しを摑む方法があればいいが……』
モチヅキは最後まで読み終えると、ゆっくりとノートを閉じた。
「――シロガネ先生なら、きっと僕のことを理解してくれる。どうして魔法が使えないのか、その原因をきっと一緒に突き止めてくださるはずだ」
ノートをぎゅっと抱え込む。
嬉しそうなモチヅキを見て、ヒマワリもなんだか嬉しくなった。
実家に帰れば病気と称して隔離されてしまうというモチヅキは、確かにシロガネの弟子になれば人生が変わるのかもしれない。
「ねぇヒマワリ、先生はまだ帰ってこないのかな。僕がここへ来て、そろそろひと月だよ」
「僕もここへ来てから、一度も会ったことないもの」
「どこに行ってるの?」
「わかんない。シロガネは気まぐれだって、アオもクロも言ってる」
「ああ、早く会いたいなぁ」
モチヅキはうずうずとした様子で、もう一度ノートを読み始めた。
しかしさらに半月が経った頃。
ついに船を調達できた、とクロが告げた。
ほぼ強制的にモチヅキが荷物と一緒に砂浜へと連れ出されてしまい、ヒマワリは慌てて後を追っていった。見れば確かに、海上に一隻の船が浮かんでいる。
「近くの港に停泊していた商船だ。お前の故郷まで送り届けるよう、交渉しておいた」
「ちょ、ちょっと待ってください! 僕は帰りませんよ! シロガネ先生に会うまでは、絶対に帰らない! それに、僕の故郷がどこだか知らないでしょ!」
「それはすでに判明しています」
そう言ってアオが取り出したのは、チョコレートの箱である。
「あっ……」
ヒマワリは声を上げた。
いつもモチヅキがご褒美にくれたチョコレートだ。
「これ、某国の有名菓子店のものですね。実は以前、シロガネのお使いで買いに行ったことがあるんです」
「……!」
モチヅキは青ざめた。
ヒマワリはその様子をハラハラと見つめる。
「モチヅキ、帰っちゃうの?」
「ヒマワリ……」
「僕、モチヅキに教えてほしいこと、まだいっぱいあるのに」
「諦めろ、ヒマワリ」
クロがそう言って、モチヅキを促す。
モチヅキは、荷物をぎゅっと抱いて叫んだ。
「僕は諦めません! 追い出されたって、何度だって戻ってきます! すぐに引き返してきますからね!」
「そう言うと思って、俺も一緒についていくことにした」
モチヅキはぽかんとした。
「え?」
「俺がお前を、家まで確かに送り届ける。お前が家族のもとに帰るのを見届けるまでは、帰らないからな」
ひくり、とモチヅキは喉を震わせた。
「や、やめてください! 戻りたくないんです! 戻る場所なんて、ない……! 家族だってみんな、僕がいなくなって喜んでいるはずです! 戻ったらまた病人扱いされて、ずっと部屋に閉じ込められる。そしてそのうち、僕は死んだことになる。そんなの、嫌なんだ!」
「モチヅキ。シロガネが戻ったら、お前のことはちゃんと伝えておく。絶対だ」
クロは、いつになく真剣な眼差しで諭していた。
「それまでは、家で待ってろ」
「でも……」
「お前の家族にも、俺が直接会って話をつけてやる。シロガネの弟子候補として、しばらく猶予をよこせってな」
「……弟子、候補?」
「じゃあ、僕も一緒に行く!」
ヒマワリはぴょんぴょんと跳び上がって、クロにまとわりついた。
「だめだ、お前はアオと留守番」
「やだ! 行く!」
「土産に、チョコ買ってきてやるから」
「ヒマワリさん、一緒に待っていましょう。その間、ヒマワリさんが好きなものなんでも作ってあげますから。ね」
クロとアオからフォローされても納得がいかず、やがてヒマワリは泣き出してしまった。
「……ヒマワリ、泣かないでよ」
モチヅキが困ったように、優しく声をかけてくれる。
「行っちゃいやだよ、モチヅキ」
泣きながらしがみついてくるヒマワリを、モチヅキは優しく受け止めて、背中を撫でてやる。
「……またきっと会えるよ。僕がシロガネ先生の弟子としてここに来るまで、待ってて」
しゃくりあげながら、ヒマワリはいやだ、というようにぶんぶんと首を横に振る。
「そうだ、帰ったら君のこと調べておくよ。魔法の塔に照会してみるから……」
「だめだ」
突然、クロが鋭い声を上げた。
そしてモチヅキに向かって、呪いの言葉を吐く。
「お前は、ここで見聞きしたことを誰にも話すことができない。もし一言でも話そうとすれば、お前の心臓は止まる。そして、二度とここへ来ることはできない」
その剣幕に硬直したモチヅキは、気圧されたように息を呑んでクロを見上げた。
「な、なんですか。脅しですか? 魔法なら、ぼ、僕には効きません、よ……」
クロが竜であることを、モチヅキは知らない。絶滅したはずの竜が目の前にいるなど、思いもよらないだろう。だが、これがただならぬ脅し文句であることは感じ取ったらしい。
「さぁ、今すぐあの船で立ち去るんだ」
怯えた様子のモチヅキはやがて、ヒマワリにもう一度別れを告げて、おとなしく迎えの小舟に乗り込んだ。
その姿を見送りながら、アオがクロに囁く。
「魔法を無効化できる彼に、呪いは効くのでしょうか?」
するとクロは、大丈夫だ、と自信ありげに答えた。
「魔法と俺たちの呪いは、まったくの別物だからな。――あいつの胸に、楔はちゃんと刺さってる」
じゃあ行ってくる、と一緒に舟に乗り込もうとするクロに、ヒマワリは追いすがった。
「クロ!」
彼の上着をぎゅっと握り締める。
「モチヅキが、家の人たちにひどいことされないようにしてあげて。お願い」
「わかったから。ほら、戻れ」
「うん……」
名残惜しそうに、ヒマワリはゆっくりと後退る。
舟がこぎ出すと、ヒマワリは大声で叫んだ。
「モチヅキ、またね!」
モチヅキが、ぶんぶんと手を振っているのが見えた。ヒマワリも手を振る。
その姿は徐々に、遠く小さくなっていった。
遠ざかる舟を見送るヒマワリの傍で、アオは手にしたチョコレートの箱をそっと見つめた。
この箱のおかげで、モチヅキの故郷がどこかわかった。
が、同時にひやりとした。
(ヒムカ国の、チョコレート……)
ヒムカ国は、ヒマワリの母国でもある。
万が一モチヅキからヒマワリの存在が漏れれば、あの国の王は黙ってはいないだろう。
(クロさんの呪いがしっかり効いたようですから、問題ないとは思いますが……)
舟に向かって手を振っているヒマワリを見守りながら、アオは気づかれないよう片手で箱を握りつぶした。ほぼ一瞬で小さな豆粒ほどになったそれを、後で燃やしてしまおうとポケットにつっこむ。
「さぁヒマワリさん、中へ入りましょう。今日の晩御飯、何にしましょうか」
「うん……」
後ろ髪を引かれるようにちらちらと海のほうを眺めながら、ヒマワリはアオと一緒に階段を上っていく。
「じゃあ……ビーフシチュー」
「承知しました。お肉は、脂身なしですね」
うん、と頷くヒマワリには明らかに元気がなかったが、時間が解決してくれるだろう。
その小さな手を取り、城へと二人で歩いていく。
(脂身が嫌いで、甘いものが好きで)
食べ物の好みが、本当にシロガネに似ていると思う。
(いえ、シロガネは何よりお酒が好きでしたね。さて、この子はどうでしょう)
今はもっぱらクロばかりが飲んでいる地下のワイン貯蔵庫には、シロガネが集めた年代物がごっそりと保管されている。いつかヒマワリも、一緒に飲むようになるだろうか。
ただ、アオは少しだけ寂しいのだった。
そんな時、自分だけはその酒を飲むことができない。
――人間になる魔法はありますか?
かつて、シロガネにそう尋ねたことがある。
シロガネは静かに、首を横に振った。
がっかりするアオに向かって、彼は笑って言った。
――でもね、アオ。君が人間だったら、僕たちは出会ってないじゃないか。そんなのは嫌だよ。
シロガネは、いつ帰ってくるかわからない。
だがアオは、焦ってはいなかった。
自分なら、いつまででも待つことができる。
(そうですね、シロガネ。俺が人間だったら、あなたに二度と会えないかもしれませんからね)
クロとモチヅキを乗せた商船は途中いくつかの港へ寄港しながら進み、ヒムカ国に辿り着いたのは十日後のことだった。ただしそれは領土の最南端に位置する港に着いただけで、モチヅキの実家があるという王都までは、さらに徒歩と運河を使って五日かかった。
案内された彼の家は王都の中でも王宮にほど近い一画にあり、周囲の屋敷より明らかに敷地も広く、高い塀に囲まれ立派な館を構えていた。名家というのは本当らしい。
家の前までやってきたモチヅキは、明らかに表情が暗かった。旅の間も度々、戻ることを誰も望んでいない、きっと嫌な顔をされる、と鬱々と語っていた。家族から冷たい言葉を投げかけられることを予想しているのだろう。
クロが門扉を叩くと、やがて黒服の使用人が現れた。彼はモチヅキを目にすると、
「……おや、戻っていらっしゃるとは」
と慇懃無礼に言った。
どうやらモチヅキは、使用人にまで軽んじられているらしい。本人はクロの隣で、気まずそうに俯いている。
「大魔法使いシロガネの使いで伺いました。こちらの主人にお会いしたい」
意外な名が出て驚いた様子の使用人は、訝しげに、
「シロガネ様の……?」
と聞き返す。
「案内していただけますか」
魔法使いの名家に仕える男は、さすがにシロガネの名前には抗えないようだった。いくらか怪しむ素振りを見せつつも、「こちらへ」と中へ促す。
応接間に通されると、しばらくしてモチヅキの両親と思われる男女が姿を見せた。彼らは椅子の上で小さくなっている息子に対し、興味がなさそうに目の端でちらりと確認すると、それきりその存在を忘れたようにクロに向き直った。
「シロガネ様のご使者だそうで。もしや愚息が、何かご迷惑をおかけしたのでしょうか」
二人とも、あまりモチヅキとは似ていない。父親は名家の長であることにさぞや誇りを抱いているのだろう、態度にも表情にも己への自信と傲慢さがひしひしと表れているし、青白い顔のほっそりした母親はといえば、ひどく神経質そうに眉をひくつかせている。
クロは余所行きの、品のある微笑を湛えてみせた。
「いいえ、とんでもない。逆です。シロガネは、ご子息に大層興味を持っているのです。近々、彼を弟子として迎え入れたいと申しておりまして」
「――弟子? シロガネ様が、うちのモチヅキをですか?」
「ええ。今は少し忙しいので、落ち着いたら迎えをよこします。それまでご子息が、大魔法使いの弟子にふさわしく十分に魔法について学んでいることを、シロガネは望んでおります」
二人は信じられない、という顔でモチヅキをちらちらと見ている。モチヅキもまた、びっくりして固まっていた。
クロの言ったことは全部でまかせだ。シロガネの意向など、彼が戻ってみなければわからない。
だがそれは、この両親には知り得ないことだ。
(魔法界において、シロガネの名は伝説。その弟子に請われていると言われれば、そう無体な扱いはしないだろう)
「失礼ですが本当に、シロガネ様がそのように? 何かの間違いでは」
「いいえ、確かにそのように言付かっています」
「ですが、シロガネ様はご存じなのでしょうか? 息子は、その……」
「魔法が使えないのでしょう?」
「…………」
父親は恥を口にしたくないとでもいうように口を噤み、視線を落とした。モチヅキはその様子に、身を縮めている。
「もちろん存じています。シロガネはそれを知った上で、ご子息を是非弟子にしたいと」
「まさか、そんなことが……」
「これは、シロガネから預かってきたものです」
なかなか納得しない両親に、クロは懐からあるものを取り出してみせた。
「これは……!」
「大魔法使いシロガネだけに授与されている、この世に唯一の『魔女の紋章』です」
それは銀のブローチであった。
中心に杖が一本、その背後には太陽が、そしてその太陽の放つ光を囲むように一頭の怪物が、己の尾を嚙んで環を作っている。
魔法使いを象徴する『魔女の紋章』だ。
この紋章は魔法書など、魔法使いに関連するものや場所には必ずといってよいほど描かれている。ただし、銀のブローチを持つことができるのは四大魔法使いだけ――これはいわば、勲章であった。
四大魔法使いの紋章にはさらに、片手の意匠がそれぞれ異なった形で加えられている。そのひとさし指は、東の魔法使いなら右を指し、南の魔法使いなら下を指している、という具合に、己の司る方角を示していた。
シロガネは四大魔法使いへの就任を拒んだが、その多大なる功績から特別にこの勲章を得ていた。ただし、彼の持つブローチに手の意匠は存在しない。代わりに、杖に翼が生えている。魔法を天に上るほど発展させ、その力が誰より高みにある者の意で、シロガネにしか使うことが許されていない構図だ。
このブローチ自体に特別何かしらの効力があるわけではないし、シロガネには具体的な地位もない。それでも、この銀のブローチを持つ者はこの世でただ一人シロガネだけだということは、魔法使いなら誰もが知っている。
ただしシロガネは勲章などにはまったく興味がなかったので、いつも適当にそのあたりに放り出してあった。キラキラして綺麗だったので、クロがもらっていいかと尋ねると、
「いーよー」
と日課の体操をしながら、間延びした返事を返したものだ。
そんなわけでこれは、クロの自室で山になっていたキラキラコレクションの中から掘り出してきたものである。
部屋の片隅で埃をかぶっていたそのブローチに対し、モチヅキの両親は歓喜に震えながら身を乗り出し、羨望と崇敬の眼差しを向けた。
「なんと、この紋章を目にすることができる日が来るとは……!」
「なんて光栄な……」
「モチヅキ殿の件、間違いなくシロガネの意志であると、ご納得いただけましたでしょうか?」
興奮する二人に、クロが畳みかける。
「そういうわけですので、次に会うまでモチヅキ殿が何卒ご健勝であられるよう、配慮をお願いいたします。何かあれば、私が大魔法使いに罰を受けてしまいますので。……もちろん、あなた方も」
ブローチの威光ですっかりクロの言い分を信じ込んだらしい父親は、先ほどまでとは打って変わって愛想よく頷いてみせた。
「それはもちろん! 息子がシロガネ様の弟子となれば、我が家の誉でございます!」
「モチヅキ! ああ、心配していたのよ愛しい子! さぁ、よく顔を見せて!」
母親が腕を広げて、大袈裟に息子に抱きついた。その豹変ぶりに、されるがままのモチヅキは目を白黒させている。
「疲れているんじゃないか? 部屋で休むか? そうだ、お前の部屋はもっと広くて、私たちの部屋に近いところに変えよう。おい、誰か! すぐに二階の空き部屋を整えよ!」
突然下にも置かぬ態度で両親に世話を焼かれ、モチヅキはすっかり呆気に取られていた。もてはやされ、戸惑いながらあれよあれよと連れていかれる彼を見届けると、クロは屋敷を後にした。
これで今後、モチヅキの扱いも変わるだろう。
クロはうーん、と伸びをした。
「はぁ、疲れた……」
あとは、ヒマワリに土産のチョコレートを買って帰ればいいだけである。
「チョコレート屋ってどこにあるんだ? 有名な店があるんだろ?」
見送りの使用人に尋ねると、大通りに出ればすぐに見つかると教えられた。
「『スオウチョコレート』というお店です。赤い看板で、目立つのですぐわかりますよ」
言われた通り、大通りへ足を向けた。
ぶらぶらと歩いていると、通りの向こうに、小高い山の上に聳え立つ巨大な城が現れた。クロは足を止め、その姿を遥かに仰ぐ。
どこか武骨な印象すら漂う黒壁の城は、軍事力によって勢力を伸ばすこの国の姿を象徴するように、勇壮で猛々しい。
それこそが、この国の王の住まいに違いなかった。
(つまり、ヒマワリの父親がいるところ……)
息子を殺せと命じた父親。
彼がヒマワリの生存を知れば、黙ってはいないだろう。
もしかしたら、あそこにはヒマワリの母親もいるのかもしれない。だとしたら、息子のことをどう思っているのだろうか。死んだと聞いて、悲しんでいるのだろうか。
「――どけ! 将軍のお通りだぞ!」
道行く人々が、慌てて脇に身を寄せ始めた。
何事かと目を向けると、騎兵の一団が整然と並んでやってくる。クロもそっと、端へと避けた。
人々がざわめく声が、耳に入ってくる。
「なぁに、どうしたの?」
「将軍がおでましだなんて」
「罪人を捕らえに行くんだってさ」
「罪人?」
クロはおや、と思った。
騎兵の先頭で馬を駆る人物に、見覚えがあったのだ。
(あれは……)
ヒマワリを追って島へやってきた、あの将軍だった。念のためその胸に視線を向ければ、クロがかけた呪いの楔が確かに刺さっている。
呪いにかかった彼は、クロの言う通りヒマワリは死んだと報告したはずである。どうやら降格されることもなく、将軍位のままでいるらしい。なかなかうまく立ち回ったようだ。
だが罪人を捕らえに行く、と聞いてクロはわずかに不安になった。
(まさか、ヒマワリのところに……)
クロは道の真ん中に向かって、悠々とした足取りで進み出た。
突然道を塞いだ不届き者に、将軍は驚いて手綱を引いて馬を止める。
周囲の兵士たちが殺気立ち、一斉にクロを取り囲んだ。
「無礼者! 脇に避けろ!」
しかし、当の将軍はクロの姿を認めると、すっと青ざめた。
カタカタと震え出した彼に、クロは昨日会ったような気軽さで「よう」と声をかけた。
「久しぶりだな」
「……! い、いいい、言ってない! 何も、言ってないぞ……!」
将軍は慌てふためいて馬を下りた。
「お、俺を、殺しに来たのか……!?」
「違うって。偶然通りかかっただけ。ところで、今からどこへ行くんだ? 罪人を追っていると聞いたが」
すると将軍ははっと気づいたように、クロを睨みつけた。
「そうだ、罪人を探している。――大魔法使い、シロガネを!」
「……は?」
クロは意外な名を聞いて、目を見開いた。
「我が国で狼藉を働いたシロガネを、即刻捕らえて処刑せよとの、陛下の命が下ったのだ!」
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