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キャスター探偵 SHORT STORY

 『金曜23時20分の男の朝食事情』 愁堂 れな

謎ときはキャスター探偵・愛優一郎の朝食とともに。
『金曜23時20分の男の朝食事情』

 今週の食事当番は愛だった。ということは、今朝も朝食メニューはグラノーラに違いない。
 奥様のアイドル、金曜23時20分の男。売れっ子ニュースキャスターの愛優一郎と僕、駆け出しミステリー作家の竹之内誠人は高校の同級生で、わけあって僕は彼の事務所で働くようになり、今や住居も提供してもらっている。
「グラノーラか……」
 グラノーラは嫌いじゃない。が、今日は土曜日なので、月曜から6連続グラノーラとなるとさすがに飽きてくる。
 愛には仕事や住居を提供してもらっている身、文句を言ってはバチが当たる。わかってはいてもつい僕の口から不満が漏れたのは、昨夜、テレビ局から帰ってきた愛から『反省会』で延々駄目出しをされた結果、就寝したのが今から3時間前のためだった。要は寝不足だったのだ。
「なんだ、今まで散々食べておいて、実は苦手だったとか言い出すんじゃないだろうね?」
 同じ3時間睡眠だというのに、眠気など一切感じさせない爽やかな顔をした愛が、即座に聞き咎め僕を睨んでくる。
「苦手ではないけれど……」
 本来なら居候の身である僕が家事全般を担当させられても当然なのだが、愛はそれでは公平じゃないからと分担を申し出てくれた。ますます文句を言える立場ではないが、ちょうどいい機会だ、と僕は常日頃から不満に思っていることをぶちまけることにした。
「さすがに毎日は飽きたっていうか……せめて味を変えるとかさ」
「そりゃ昼も夜もグラノーラなら飽きるだろうけど、朝だけだぜ? 栄養価も高いし、別にいいじゃないか」
 愛は衣食住、ほぼ拘りがない。食事も栄養がとれればなんでもいいと言うのだが、その割には僕の作った料理には、味が薄いだの見た目が悪いだのと文句をつけてくる。
 とはいえそういう人間に『飽きる』と言っても通じないだろう、とクレームを早々に引っ込めることにしたそのとき、インターホンが鳴った。
「こんな時間に誰だろう?」
 訝りながらオートロックへと向かう。画面に映っていた来訪者は意外すぎる男だった。
「愛、斎藤警部補が来ているみたい」
 オートロックを解除してからダイニングに戻り、そう報告する。
「ああ、昨夜の放送に対するクレームか、そうじゃなかったら事情聴取かな」
 刑事の来訪を愛があまり驚いていないのは、斎藤とは既に『顔馴染み』以上の間柄であるためだった。
 昨夜の番組で愛はある事件を取り上げ、犯人は警察に逮捕された人間以外にいる、とぶちまけたため、プロデューサーにさんざん絞られたと愚痴っていた。それで僕の睡眠時間が削られたのだ。
 用件がそれであるなら斎藤の機嫌もさぞ悪いだろう、と覚悟しつつ玄関へと向かい、チャイムと同時にドアを開いた。
「いるか?」
 斎藤は必要以上の言葉を話さない。
「はい、どうぞ」
 用事があるのは愛だとわかっていたので、僕は彼にスリッパを勧め、ダイニングへと通した。
「食事中か。悪かったな」
「よかったらご一緒にいかがです?」
 テーブルを見て、意外にも礼儀正しく詫びた斎藤に愛が声をかける。
「結構。朝は和食と決めている」
 斎藤がにべもなく答えると、愛が彼ににっこり笑ってこう告げた。
「それならどうぞ明後日、いらしてください。竹之内が食事当番になるので。竹之内、メニューは和食で頼むな」
「朝飯を食べにきたわけじゃない!」
 ふざけるな、と睨む斎藤の前で愛が、やれやれ、というように肩を竦める。
 そういうことをするから常に厳しい態度を取られるんじゃないかなあ、とハラハラしながら見ている前で斎藤は来訪の理由を話し出したのだが、愛の予測どおり、昨夜の番組で取り上げた事件についてだった。
 その内容については来週の金曜23時20分に乞うご期待! である。