第7回
「王家に未来はありません。」
占い師の揺るぎのない声が王妃に突き刺さる【前奏曲】とされるパートから、物語が始まる。予言のようなこの言葉に心臓を摑まれるのは読者も同様で、私はたちまち引き込まれ、気がついたら物語の舞台である近世フランスへと足を踏み入れていた。
激動とされるその時代のなかで、大きな運命と歌の才能を与えられて生きるのが、主人公の少女・ソフィー。とある一家と、愛や知識に満ちた交流を重ねてきたソフィーは、一家が悲劇に見舞われるなかで、自分の出生にまつわる真実や、与えられた使命を知る。
逆境に立たされたプリンセスが、ふわふわなドレスでハッピーエンドを迎えるお伽話に胸を高鳴らせてきた私にとって、ソフィーの姿はなんとも眩しい……! 苦しさを携えた真実を甘んじて受け止め、自分の使命や正義心を失わず、歌うという才能を輝かせていく彼女。それはまるで、幼い頃に初めて「シンデレラ」や「白雪姫」などの童話に触れたときのような、憧れを伴う高揚感。
その一方で、そこに子ども向けの甘さが一切ないところも秀逸である。著者が徹底的に調べた当時のフランス情勢が色濃く反映されており、世の中を見つめるソフィーとのコントラストを強くしている。
この緩急にも心をガシッと摑まれ、勢いの止まらないまま読み進めるなかで、身寄りがなくなったソフィーを、それぞれの方法で助けてくれるピトゥやマルタ、秘密を抱えた大人びた少年・ジョアキーノなど、温かな人との出会いに癒される。「桃太郎」や「西遊記」などのような、仲間との出会いの楽しみまである。
幼い頃、お伽話や昔話に純粋な気持ちで取り憑(つ)かれていた感覚を、大人になった私に寄り添いながら思い出させてくれる小説なのだ。
物語は二巻へと続く。
「そしていつまでも幸せに過ごしました、めでたしめでたし」にソフィーはたどり着くことができるのか。フランス革命を経て、民衆も王家も不安定なフランスの世のなかに、著者によってちりばめられた魔法のようなキーワードやキーパーソンは、今後どのような結末で描かれるのか。
次の日の遠足が楽しみで眠れなかったあの頃のように、ワクワクしている。