【「銀の海 金の大地」復刊完結記念トークショー ~佐原ひかり&嵯峨景子の「銀金愛」を語る夕べ(ネタバレあり)~】開催レポート
このレポートは、2025年11月21日(金)にジュンク堂書店池袋本店で開催された『銀の海 金の大地』復刊完結記念イベントの内容をまとめたものです。当日は、『銀の海 金の大地』をこよなく愛する作家の佐原ひかりさん・書評家の嵯峨景子さんが登壇。事前に『銀金』ファンのみなさんから寄せられたアンケートをもとに、「真秀の章」ついに完結ということで、「ネタバレあり」の熱いトークが繰り広げられました。その模様を、ダイジェストとしてご紹介します。

◆『銀の海 金の大地』は、なぜ今復刊されたのか
佐原 早速なんですが、令和の今、なぜ『銀金』が復刊したのでしょうか。
嵯峨 直接のきっかけは、2015年に創刊したオレンジ文庫が10周年を迎えたことだそうです。オレンジ文庫の創刊当初は、前身であるコバルト文庫的な要素は抑えられていました。ところが、ある時期からコバルト的なファンタジー作品も売れるようになってきた。さらに、10周年という節目を迎えたことが復刊を後押ししたようです。
2010年代にはコバルト文庫の作品を電子化する流れがあり、氷室さんの作品も多数電子化されました。けれども、2000年代以降、差別表現を規制する動きが大きくなって、暴力的で過激なシーンがある『銀金』を復刊するのは難しかった。そのため『銀金』は、復刊もされず電子化もされない、ある種幻の作品になっていたわけです。
ところが、今の時代になって、差別表現を規制する動きが以前よりはゆるやかになった。そんな時勢の変化も、『銀金』の復刊を後押ししてくれたようです。
◆『銀金』の物語を振り返る 1~5巻まで
佐原 私が『銀金』を初めて読んだのは、中学生の時でした。冒頭の真秀が船酔いしてしまうシーンで、一気に古代の世界に入りこめた実感がありました。
嵯峨 私は1巻では真秀がおめかしするシーンが好きです。湯浴みをさせられて髪にさね葛の汁を塗られて、綺麗になっていくあのリアリティ。ディテールの描写にときめきました。4世紀の古代って私たちにとっては遠い時代なのに、リアルに読ませる描写がすごいですよね。
嵯峨 今回の復刊では、コバルト版でイラストを担当した飯田晴子さんがカバーイラストを描きおろしたことも話題になりました。しかも、挿絵まで描き直されている! コバルト文庫の挿絵を踏襲しつつ、今の絵にアップデートされていて。『銀金』はやはり飯田晴子さんの絵ありきでみなさんイメージしていたと思うので、飯田さんが続投して、しかも挿絵を描き直しているというのは、非常に稀有だと思います。
2巻では、いよいよ佐保彦が登場します。でも、登場時点では佐保彦は超嫌われてるんですよね。
佐原 クソガキムーブしてますからね(笑)。
嵯峨 佐保彦登場の前に、「月の忌屋」のシーンがありましたね。古代の女性が月経中だけ過ごす独特の空間ということで、すごく衝撃的でした。
佐原 氷室さんは、文章のどこを読んでも匂い立つような文章で、私はこのシーンを読んで、むせかえるような濃い血の臭いを感じました。
嵯峨 真秀が月の忌屋に籠もっている間に、真澄は息長の女にいいようにされていた。それを知った真秀が激怒して、相手の女性の髪を切る。ドラマチックですよね。
佐原 一方で真澄も、真秀を襲った息長の男たちを霊力で躊躇なく殺しています。「あいつは真秀を汚した。殺すよ」なんて言っていて、お互いを思う気持ちがつよつよです。
嵯峨 本当に、激重感情ですよね……。いろいろ印象的な場面がありますが、2巻はやっぱり佐保彦と出会う場面です。ここの文章が本当に美しい。
星がまたたくつかのま、あるいは無窮のとき。
ふたりは激しく、ほとんど憎みあうように、離れがたい運命の引き綱をひきあうように、凝視めあっていた。
世の中にいろんなボーイミーツガールがありますが、この文章が本当に印象的でした。
佐原 私は1巻を読んだ時は、真若王がヒーローなのかなと思っていたのですが、このシーンで「あ、ヒーローこっちか。真若王じゃないんだ」と分かりました。
嵯峨 2巻では、美知主が真秀の父親であることも判明します。
では、3巻にいきましょう。日子坐と御影の場面が印象的でした。日子坐が大闇見戸売とも会うシーンもあり、親世代の過去エピソードが出てきます。日子坐が御影と出会うシーンだったり、夏の眉月の夜に、御影が十年前の誓いを信じて日子坐を待っているシーンだったり。どちらも切なくて、忘れられないシーンなんですが、そこからまたさらに運命が狂っていく。当時のコバルト文庫って、読者が等身大に受け取れる女子中高生向けのラブロマンスが多かったですが、『銀金』3巻では大人のドラマが描かれています。
佐原 3巻では、美知主が感じる嫉妬心にも言及されています。なんと、公式の嫉妬なんですよね! アツい!
嵯峨 続いて4巻です。燿目の死という衝撃の大事件が起こります。
佐原 御井津姫が殺されてしまうのも4巻でしたね。船の中で「大和の豪族は、みんな、王子みたいに、いばりんぼうなの?」って佐保彦に問いかけるところが好きです。
嵯峨 御井津姫って、素直でちょっと幼い感じで、シリアスな物語を和ませてくれるキャラです。そんな彼女が殺されてしまうのがすごく残酷で。ほんの一瞬しか出てこなかったけれど、印象が強いキャラでした。
嵯峨 あと、4巻には鉄を作るタタラ屋のシーンが出てきます。それを見て、佐保彦は息長豪族の富と権力を知り、自分の小ささに気づきます。私はこのシーンがとても好きで、第一印象がいまいちだった佐保彦のことを、初めて「いいな」と思えたシーンでした。
佐原 続いての5巻は、真秀を救うために、佐保彦が爆速で佐保帰還を決めるシーンが人気ですね。
嵯峨 あとは佐保彦の前で、老婆が真秀をかばうシーン。この老婆については、7巻の解説で平戸萌さんもふれていて、見落としがちだけどすごくいいシーンです。
佐原 佐保彦の前で真澄をぶつことで庇うっていうのが、まるで勧進帳みたいだなと思いました。それから、5巻では私の推しの波美王が活躍します。私が波美王を好きだと思うところはふたつあります。ひとつは誰にも従わず、自分の力で生きる誇りかなところ。そしてもうひとつは、真秀のことを女として見ず、ちゃんと子ども扱いしてくれるところです。
それに、真秀のつらい現実をちゃんと分かっていて、「(おまえは)夢をみたがっている。現つは今のところ、おまえにあまり優しくないからな」と、厳しいことも言ってくれるのもすごく推せます。
嵯峨 私も波美王がすごく好きです。真秀のことをさらったりするし、いつも味方ではないんだけれど、ちゃんと真秀の立場を見て考えてくれているし、思いやりがあるので。
その波美王が大活躍するのが6巻ですね。
◆『銀金』の物語を振り返る 6~11巻まで
嵯峨 氷室冴子作品のマイフェイバリットをあげるとしたら、『ジャパネスク』の2巻か『銀金』の6巻。本を1冊しか手元に残せないんだったら私は『銀金』の6巻を選びます。
波美王と真秀の名シーンが登場する章のタイトルが「わたしという名の王国」。これが本当に素晴らしい。
「おまえは、おまえのものだ。おまえは真秀という名の王国の、ただひとりの王だ。王なら、その領土をいのちがけで守れ。けっして、人にあけ渡すな。だれの支配も許すな。王にふさわしいことをしろ」
これは波美王から真秀へのメッセージですけれど、リアルタイムで読んでいた時は、自分への言葉のように受け取りました。
佐原 6巻は本当に名言しかなくて、小由流から真秀への「心に金の砂を持っているわ」っていう名台詞も出てきますね。
嵯峨 歌凝姫と須久泥のエピソードも出てきます。真秀と佐保彦のピュアな関係と比べて、歌凝姫と須久泥の関係は薄汚れている。中学生で初めて読んだ時、この人間ドラマが子供心にもズキンと刺さったのを覚えています。
佐原 『銀金』を人にすすめる時は、6巻まで読んでと伝えたい。2月の復刊記念イベントの時に「『十二国記』だったら「ネズミが出るまで頑張って」って言うけれど、『銀金』も同じように言えないかな」と話しましたが、『銀金』は6巻までは耐えて読んでほしいです。
嵯峨 7巻はやはり忍人の死……。この死の描かれ方も衝撃的でした。拷問され、苦しみ抜いて死んでいく生々しい描写。4巻で死んだ燿目は一人で死にましたが、忍人は妹の小由流がとどめを刺します。
佐原 7巻はちょっとラブがいいなと思ったところがありました。佐保彦と相対した真秀が言うんですよ。「あんたは佐保の王子だわ、佐保彦」「それに、あたしを憎んでいる。あたしが佐保の、滅びの子だから」「だけど、あたしはあんたが好きだわ」
嵯峨 真秀って受身じゃなくて、11巻の共寝のシーンもそうですけれど、自分から「好き」と言う少女なんですよ。私は真秀の姿勢が大好きです。
8巻は、佐保彦が歌凝姫を振るシーンがありますね。
佐原 須久泥と真秀のシーンもすごく好きです。須久泥も真秀に優しい。打算なく優しくしてくれる、数少ない大人なんですよね。
嵯峨 須久泥は、いろいろなことに諦めを抱いているというか、立ち位置が印象的なキャラで、本当に味わい深いです。大人になってから須久泥のよさに気づく方は多そうですね。
佐原 9巻では、中毒した大王を、佐保が受け容れざるを得なくなるという流れがすごいなと思いました。受け容れなければ佐保のイメージが悪くなる。受け容れると各部族の首長たちが佐保にやってきちゃう。他族を拒む佐保の中にどうやって入るか、と考えると、確かにこれだと受け容れざるを得ない。『銀金』世界で一番頭がいいのは、美知主ですね。美知主の知略はすごいんだと周りに言わせるのではなく、実際の美知主の行動や考え方を示すことで描かれている。読んでいて鳥肌が立ちました。
嵯峨 私は9巻で好きなのは、氷葉州姫が大王の子を産み、自分を侮るものを跪かせてやると決意する場面です。立場的には悪役で、容姿があまり美しくないために、軽んじられたり馬鹿にされたりしている。そんな彼女の、この心意気がすごく好きです。決して優しいキャラではないんですけど、嫌いになれない。
では、いよいよ衝撃の10巻です。あの展開について私は全然予測していなくて、本当に衝撃を受けました。
佐原 私は勘のいい読者なのでうっすら気づいていました。真秀と真澄の霊力が異常すぎて、これは滅びの子というよりというより逆じゃない? と思っていました。
嵯峨 読者の大半はそんなこと疑いもせずに読んでたと思うので、衝撃だったでしょうね。
佐原 そしてついに、物議の11巻です。
嵯峨 私は「愛する人に幸せになってほしい」と願うタイプなので、11巻の真澄は、真秀に呪いをかけて縛るのかとショックを受けました。そこに彼の執着の激しさが見えるんですけど、佐原さんはどうですか?
佐原 今世ではどうしようもないから来世に懸けるっていう真澄の気持ちはとても分かる。だけど、堪えてくれよっていう気持ちは正直ありましたね。
嵯峨 多分、真澄に賛否両論があるのは、ここの展開があるからですよね。でも、それだけ一途に真秀のことを思ってきた。その一途さ自体は分かるんですけどね。
佐原 11巻では、佐保彦と共寝をした後で、真秀の成長を感じられる一言があります。佐保彦が「佐保にはおまえが要る。一族にはおまえが……」って言うんですけど、それに対して真秀は「あたしには、佐保一族は要らないのよ、佐保彦」と答える。あれだけ故郷がほしいと彷徨っていた真秀が、最後にこう言うのが美しい!
嵯峨 『銀金』は佐保彦の成長に目が行きがちですけれど、序盤には孤独に苛まれていた真秀の成長もしっかり描かれていますよね。
◆『銀金』今後の可能性について
嵯峨 今回『銀金』の復刊記念プレゼントとして、カレンダーが作られます。オレンジ文庫版の1巻から11巻までの表紙と、コバルト版11巻の口絵にある真秀と佐保彦のキスシーンを新たに描きおろしたイラストが入るそうです。抽選100名様なので、選ばれし者の手にしか渡らないような気がしますが、とっておきのファンアイテムになるでしょうから、ぜひみなさん応募していただけたら嬉しいです。(応募締め切り:2026年1月31日)
カレンダー100部だけだとみなさんの手に行き渡るのはちょっと厳しいので、何かしらの形でお届けできないか、今編集部のほうで検討してるそうです。
ここまで『銀金』は毎月1巻ずつ復刊されていました。今、全11巻が揃って、ここからより多くの方々へ広げていきたいところです。オレンジ文庫の中では比較的若い読者層にも届いてるそうなんですが、もっともっと若い人たちにも知ってほしい。どうやったら下の世代に伝えられるんだろうねと話しています。私は大学で講師をしていて、大学3年生への授業でコバルト文庫を紹介しています。学生の食いつきがすごくよかったのが、若木未生さんの『グラスハート』と、『銀の海 金の大地』でした。だからそういう意味で、若い人たちにちゃんと情報を伝えられたら、『銀金』はもっと広まると思います。全11巻が揃ったことで、一気読みできるようにもなりましたし。
佐原 人に勧めやすくなりましたよね。
嵯峨 『銀金』をさらに広めて行くにはどうしたらいいのか。やっぱり、若い世代に届けるにはメディアミックスできると大きいですよね。だから『グラスハート』の佐藤健さんのように、『銀金』が大好きでアクションを起こしてくれる人が出てくるといいな、と思っています。
(了)
(2025年11月21日 於 ジュンク堂書店池袋本店イベントスペース)