第238回短編小説新人賞 選評『放課後ラジオ』塩治優花
編集A 短編には珍しい、オムニバスっぽい作りの作品です。
青木 4パターンのエピソードが並んでいますよね。「放課後ラジオ」のパーソナリティをしているりのん先輩とひなちゃん。職員室でその放送を聞いている教師の「俺」。靴下の色について投稿した成瀬さん。保健室登校をしている「僕」と青い髪の3年生。「放課後ラジオ」を基点にして、それを聞いているそれぞれの人たちの話が語られるというのが、おもしろい構成だなと思いました。
編集B ただ、初めて読んだときは、ちょっとわかりにくかったです。視点人物が次々に変わっていくので。
編集D 「視点人物が変わった」ということ自体も、わかりにくいんですよね。最初、りのん先輩とひなちゃんの会話がしばらく続くので、会話劇なのかと思いきや、4枚目でふいに「俺」が登場してきます。この「俺」が主人公なのかと思ったら、場面転換後にはまた語り手が他の誰かに変わっている。
編集B 読み進んでいけば、「成瀬さんという女子生徒」だということがわかってくるのですが、それまで読者は戸惑いますよね。
編集D やっと語り手が判明したと思ったら、またしても場面が変わって、新しい語り手が登場してきます。話が切り替わるたびに、「これは誰?」とまごついて、何度も戻って読み直したりしました。
編集E 視点人物を変えること自体はおもしろい企みなのですが、もう少し読者が理解しやすい書き方を工夫したほうがいいかなと思います。
青木 エピソード同士も、今ひとつ絡んでいなかったですね。オムニバスは、単にエピソードが横に並ぶのではなく、いろいろなエピソードやキャラクターたちの関係が巧みに絡み合って、最後に大きなまとまった物語になるというところが、一番の醍醐味のように思います。先生のパートがあとからのエピソードの鍵になるのかなと思いましたが、そうではありませんでした。
編集A そういう意味では、うまく一つの物語にまとめきれてはいなかったかなという印象です。それぞれのキャラクターの現状が描かれながらも、ストーリーが結びついていかず、なんとなく終わってしまったという感じ。
青木 作品全体を貫くテーマのようなものを、書き始める前の段階で、もう少し明確に設定しておいた方がいいのではないでしょうか。そういう指標があれば、ブレずに書き進められるし、「ラストはこういう締めくくりにしよう」ということも考えやすいと思います。書き終わってから加筆する形でもいいです。短編の中のエピソードなので、どこかに濃淡をつけて、全体的な統一感があったほうがいいと思います。
編集B 私の場合、この学校の校則が厳しすぎて、そこにばかり意識が行ってしまいました。
編集E 私もです。下着の色まで、きっちり指定しているんですよね。
編集D 「白シャツに透けないように」という学校側の要求は理解できるものの、それにしては、「白・黒オンリー。ベージュもダメ」というのは、どうしてなのでしょう。
編集B 服装指導の日に、男の先生が女生徒の胸元をじろじろ見て、「おまえの下着、ベージュだろう。アウトだ」とか言ったりするんでしょうか? 昭和の時代ならいざ知らず、この令和の世にそんな高校、本当にあるのかな?
編集E 絶対にないとも言い切れないでしょうけど、読んでいて引っかかってしまいますよね。
青木 このパートの中で、「俺」先生は至極まじめに、「教育者なのに、どうして生徒の気持ちを汲んでやらないのか」「教師側も、現状を変える努力をすべきなのに」と憂慮してくれています。作者がこの作品で言いたかったことの一端が、先生の言葉を借りる形で、ここに語られているのだろうと思います。でも読者側はどうしても、「下着の色」という要素のほうに目を奪われてしまいますよね。
編集D 作者さんには申し訳ないのですが、「女子生徒に下着の色を尋ねる男性教師」という存在が頭をよぎってしまいますよね。
編集E 「下着の色」という目を引く要素を使ったせいで、伝えたいことが逆に読者に届きにくくなってしまっていますね。
青木 この話に、性的な要素はあまり持ち込まないほうがよかったんじゃないかな。例えば、校則が厳しすぎるということを描きたいなら、「ヘアゴムの色は黒と決められている」みたいなものでもよかった気がします。あるいは、「お化粧は禁止になっているけど、日焼け止めくらいは許してほしい」とか。
編集D スカート丈が決められているとか、男子は全員丸刈りだとかね。生徒側が「改善を求む」と言いたくなる校則は、「下着」以外でも、いくらでも設定できたと思います。
編集B 下着の色まで指定するような締めつけが強い学校の割に、後半では「青い髪に、いくつものピアス」の生徒が登場してきて、ここもちょっと疑問でした。
青木 そういえば、成瀬さんが「なんちゃってヤンキーみたいな上級生がいる」と言っている場面もありましたね。
編集B あと、これは単なるケアレスミスかもしれませんが、青髪先輩がはじめて姿を現した場面に、「口調も女の子みたいだから完全に男子だと思っていた」とあります。ここは、「女子だと思っていた」の間違いではないでしょうか。
編集A そうかもしれないですね。でないと、文章の辻褄が合わなくなってしまいます。
編集B りのん先輩とひなちゃんがタッグを組むことになった経緯も、6枚目では「ひなの方からぐいぐいアピールしてきて、りのんが受け入れた」ことになっていますが、ラストのところでは、「ひなの声をたまたま耳にしたりのんが、ラジオに誘った」ことになっている。いつの間にか、設定が逆になっています。
編集C ちょっとした矛盾や疑問を感じるところが、ちらほらありますね。
編集B この作者さんは、何度も投稿してくださっている方です。丁寧に読み直しをすれば、これらのミスにも自分で気づけたはずではと思います。もう少し推敲に力を入れてみてほしいです。
編集A ところで、この「放課後ラジオ」で読まれるお便りって、「こんな校則に困ってる」「こんな先生が嫌だ」みたいな内容が多いですよね。これは、学校側としては面白くないんじゃないでしょうか。りのん先輩が堂々と、「直談判したけど、校長先生は聞き入れてくれなかった」みたいなことまで喋っています。旧態依然とした空気のこの学校で、こんな内容の放送が果たして許されるのだろうかと思うと、そこもちょっと疑問でした。
青木 確かにね。むしろ、そこに至るまでを詳しく描けばよかったかもですね。こんなにガチガチに生徒を縛ってくるような学校で、いかにしてりのんちゃん達が「放課後ラジオ」の実現にこぎつけたのか。応援したくなりますし、その過程を具体的なエピソードとして盛り込んだら、面白かったかもしれないです。
編集E りのん先輩とひなちゃんの会話自体は、すごく楽しく読めるものになっていたと思います。
青木 私もそう思いました。この二人の会話、楽しいし、かわいいですよね。ずっと聞いていたくなります。
編集E 読んでいると、頭の中でちゃんと音声になって再生される感じがありました。こういう「音声のみ」の部分を、読者が楽しめるように書くというのは、なかなか難しいことではないかと思います。そこがうまくできていましたよね。
青木 ただ、この二人の会話、意外と分量が少ないんですよね。4枚目でもう、視点人物が「俺」先生に切り替わってしまうんですが、もっと書いてもいいのにと思います。「俺」先生のパートって、実は状況説明なんですよね。りのんちゃんがどういう人なのかとか、何を考えてどう行動したかということを、「俺」先生がかいつまんで説明している。でも、地の文での説明が続くので、読者はちょっと読みづらく感じてしまいます。
編集E そのあたりの説明も、りのんちゃんたちの会話の中でできますもんね。それなら、するするっと楽しく読めると思うのですが。
青木 この「俺」先生のパートは、再考の余地があるかもしれません。せっかく「ラジオ」という素敵な設定が作れているので、そのシチュエーションをもっと活かせるといいと思います。
編集C ラストにオチがないのも気になりました。ひなちゃんが「先輩の意志を継ぎますから」と言って、良い雰囲気にはなっているのですが、りのん先輩は「後継者がいない」ことに悩んでいたわけではないですもんね。このラストは、今ひとつオチとして機能していないと思います。
編集B もちろん小説には必ずしもオチが必要というわけではありませんが、この話では生徒の「困っていること」がいくつも描かれていて、明らかに問題提起がされていますよね。そこに対するアンサーが何かしら用意されていた方が、読者にとっては納得感があったと思います。
編集D 成瀬さんのパートでは半田君が勇気づけてくれてたり、「僕」のパートでは仲良くなれそうな先輩ができたりと、多少の明るい兆しは描かれているものの、インパクトにはやや欠ける感じですよね。問題提起がある話の割に、未消化なまま終わっている。
編集E 小さなものでもよいので、何かしらの変化は見えてほしかったです。りのんちゃんたちが「放課後ラジオ」でがんばったから、学校のあちこちでちょっとした変化が生まれている……といったところが、描かれていてほしかった。
青木 例えば、体操服を着た女子が教室の扉の前でうろうろして、「あーもう、男子の着替えまだかなー。忘れ物取りに入りたいのにー」ってぼやいてる横で、もう一人の子が「まあまあ、もうちょっと待ってあげようよ」って言ってるシーンを、最後のほうでさりげなく入れるとかね。
編集A その場面を、りのん先輩がたまたま目撃したりするわけですよね。
編集C それでりのん先輩が、「私は『革命を起こしたいのに、全然できていない』なんて思っていたけど、小さなところで確実に変化は生まれているのかもしれないな」と気づく、とか。
編集B あるいは、ひなちゃんが過去の放送分をアーカイブしていて、近々配信を始めようと準備を進めているとかでもいいですよね。「コメント欄で生徒たちの意見を集めて、学校側と交渉しましょうよ」って、りのん先輩に提案してくるとか。
編集A それなら、「未来に何かが変わるのかも」という希望が見える終わりになりますよね。ひなちゃんが「配信者」であるという設定も活かせます。
青木 それもいいですね。りのんちゃんはすごくがんばっているので、ほんのちょっとしたことでいいから、最後になんらかの成果が見えてほしかったです。
編集C ただ、ラストをどう締めるにせよ、30枚でオムニバスをというのは、なかなか無理があると思います。
青木 そうですね。短編にはあまり向かない手法かなとも感じます。たった30枚しかないので、あれもこれも詰め込むことはできないですよね。書きたいものはある程度絞って、そこに焦点を当てて書いていった方がいいのかもしれません。ただ、挑戦してみたことは無駄ではありません。この作品をもとにして長く膨らますこともできますし、設定もキャラクターも素敵で、わたしは好きです。
編集E キャラクターの描き方はすごくよかったと、私は思います。何人ものキャラが出てくる割に、ちゃんと見分けがつきますよね。ほんのワンシーンしか登場してこないのに、それぞれのキャラの性格や考え方みたいなものがちゃんとわかります。
青木 やり取りの描き方がうまいですよね。そのキャラらしさがよく出ているし、コミカルな感じもあって、楽しく読めました。
編集E 「僕」がカーテンを開けたら、ムキムキの先輩が立っていてたじたじになる場面とか、面白かったです(笑)。
編集A 「ラジオ」という校内放送が放課後の校舎に流れている中で、いろんな生徒たちがそれぞれいろんなことを思っているというシチュエーションが、すごく好きでした。同じ瞬間に、同じラジオを聴きながら、一人ひとりが違う悩み事を抱えていたりする。青春感がありますよね。
編集B 「男子だって着替えを見られるのは嫌なんだ」というのも、言われてみれば確かにそうですよね。この作者は着眼点がすごくいいなと思います。キャラのエピソードやシチュエーションの作り方もうまい。あとはそれを、うまく活かしてもらいたいですね。
編集C 面白いアイディアが、単発で終わってしまっている印象です。ラストももう少しうまくまとめたいところですね。
青木 プロットを作らずに、とにかく思いつくままバーッと書いていくほうが合っているタイプなのかもしれませんね。それはそれで問題ないと思います。とりあえず書きたいことを全部先に書き出してしまって、その後でプロットを作ることもできます。実は、私もたまにやる手法なのですが。
編集B なるほど。それなら、どこを中心に描きたいのか、そのためにどういう構成にするべきかということを、後から落ち着いて考えることができますね。
青木 いいものをたくさん持っていらっしゃる書き手なので、勢いに任せて書いて終わりにしてしまうのは、すごくもったいないと思います。
編集E 急ぐ必要は何もない。自分の中から生まれてきた大切な物語と、ぜひじっくりと向き合って、最高の形になるよう練り上げてほしいですね。